10−63【本当の秘宝2】



◇本当の秘宝2◇


「――あ。ヤベ……」


 全員の視線を浴びて、ようやく冷静になった。

 ミーティアや、ウィズの存在を知っているであろう人物ならば、俺の変な声も納得できるだろう。

 だが父さんは別だ……エルフの女王陛下の御前でアホほど間抜けな声を出した俺を見て、真っ青になってしまっている。


 サァーっと血の気の引く父さんを見て、更に冷静になった。

 父さんすまん、完全に俺のミスだ。だから挽回する。


 パンッ――と、編集点のように手を叩いて。


「――え、えっとつまり。エルフの里を守護し続けてきた秘宝、【エヴァーグリーン】。それを手放すということは、エルフの里は無防備になって危険に晒される……それを安易に平気と言える根拠……エルフの里では、もう退去が始まっているから?」


 考えられるのは、襲われても無傷でいられる手段だ。

 きっと長い歴史の中で、何度も敵襲があったはず。

 そしてその場所……エルフの里【フェンディルフォート】で守ってきた。

 それを捨てる理由は。


「……理解したか?」


 ジルさんが笑う。

 そういう考えは事前に通達してくれよ、頼むからさ。

 いや、ジルさんも巻き込まれた側か?もしかして。


「はぁ……ま、そういう事なんでしょうね」


 エルフ族の総意。

 女王と王女、そして最側近である人物がこの場にいる時点で、それが確定する。

 何のことはない、冷静に考えれば始めから想定できる事。

 なんで今まではあたふた考えを巡らせていたんだ俺は――


『――拒否したかったのでは』


 ヘッ――そうかもな。


「――俺に、いやこの村に秘宝【エヴァーグリーン】を授けてくれる。それは謹んで受け取られていただきます。陛下」


 多分もう拒否できないし、それを有効活用する手段を探すしか無い。

 だから受け入れる事が、この場の最善だ。


「この【エヴァーグリーン】、この村の秘宝・・・・・・として扱わせていただきますよ……陛下を始めとした、全エルフ族の保護と協力を約束します」


「「「!」」」


 エルフ族の目的は、長年住んだ里を捨ててでも見つけたかった存在ばしょだ。

 秘宝を授けてでも、この場所に根を張れると確信したからこそ行動できる。


「ふふふ……流石、配しおもんぱかる少年です。我々の意図を汲んでくださいましたね」


「……こうなるって分かってて言ってますよね、ニイフ陛下」


「さて、どうでしょうか?」


 最終的な目的は、この村をエルフの永住の地にすることなんだろう。

 秘宝は守護と盟約の証となり、絶対に裏切らないという証明としたんだ。

 エルフ族は公国を恨んでいる……そんな前情報で最大の目的を隠して、自分たちの未来を確約させた。


「あ……あの〜。それじゃあ僕たちは……」


 ルーファウスも気付く。ニイフ陛下にうまく使われたって事を。


「――謝罪しますわ、公子ルーファウス、公女レイナ」


 ニイフ陛下は椅子から立ち上がり、なんと頭を下げた。

 ジルさんもエリリュアさんも、護衛の二人もそれに習った。


 始めからこうするつもりだったなこの人たち。


「貴公たち公国の民に……我らエルフ族はなんの遺恨も求めません。それは先も言った通り、事実と受けて頂きたい」


「そうだ、ルーファウス……我々はな、このミオとかいう男の力になりたいのだ」


 俺の力に……ねぇ。

 もう充分頼りにしてるってのは、言わないほうがいいんだろうなぁ。


「ジルさん……」


 ルーファウスも、なんだか考えが一致したかのような顔してるし。


 ニイフ陛下は俺を一瞬だけ見て、ルーファウスの元へ歩み寄って手を差し伸べる。


「――公子ルーファウス。わたくしニイフ・イルフィリア・セル・エルフィンは……ミオ・スクルーズ殿への協力という形で、過去の清算を求めます。いかがか?」


「……断る理由などある訳がありません、お約束します……僕たちの全てを以って、エルフ族の意思に協力させていただきますっ!」


 両手で包み込むように、ルーファウスは陛下のは手を取る。

 隣のレイナ先輩もそれに自分の手を重ね。独りじゃないよと言いたいように。


 秘宝か……もしかしたら、【エヴァーグリーン】が秘宝なんじゃなくて、この関係性こそが秘宝だったのかもな、これからの村の未来に。


『――別にうまくないわよ』


 ズルッ――と方が滑る。

 まったく、いい感じに終わらせろよな。

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