10−62【本当の秘宝1】



◇本当の秘宝1◇


 エルフの女王、ニイフ陛下が俺たちに見せてくれたのは、異質な宝石だった。


「「「……」」」


 あまりにも異質。

 言葉を飲んでしまうほどの空気の変わりように、その異常なまでの魔力を感じられた人物は、誰であろうとそうなったはずだ。


「――これを、ミオ・スクルーズ殿に授けましょう」


「あ……え!?さ、授け……って、こんな凄い、何ていうか……」


 どう言葉にすればいいんだよ。

 これはマジでヤバい代物だ、言ってしまえば国宝や神の道具。

 一個人で受け取れるものじゃない。


「ミオ、お前にならこれを預けられる。そう陛下がお決めになったんだ、これはエルフ族の意思だよ」


「……ジルさん、でも流石にコレは……規模が大きすぎて」


 授けるということは、これを俺に託すと言うことだろ。

 どう見ても秘宝……エルフ族の秘宝と言えば、もうあれしかない。

 かつて公国がそれを手に入れるために王子、ジェイルをかどわかして国を滅ぼした……【エヴァーグリーン】。


 それをまさか、くだんの子孫である公子公女の目の前でさらすとは。

 ルーファウスも、その存在感に気付いていたはず。

 女神の恩恵を受けて転生の特典ギフトを持つんだ、感じるよな。

 レイナ先輩は、まぁほぼ一般人に近いから、特別気づかなかったんだろう。


「規模など関係はないでしょう。この【エヴァーグリーン】は、エルフの始祖である【エルフェリーディア】様が所有していたと言われる“石”。簡単に言えば、わたくしやジルリーネちゃんのご先祖様の遺品です……それをどう扱うも、子孫である我ら次第です」


「それは、そうですが……」


「【エヴァーグリーン】は樹と風の魔力の最上級の力を秘めた“石”。使えるのではありませんか……?あの塔に」


「!」


 まさか、さっき塔の内情を話したのは……


『――おそらく』


「使えるものはお使いなさい。例えエルフの里の守護が無くなろうとも……わたくしたちはそれを選んだのです」


 さらっと凄いこと言った!!

 エルフの里が隠れられていたのは、この【エヴァーグリーン】があったから、それがなくなれば、今まで隠れてきた意味も、隠してきた意味もなくなる。

 じゃあ何故、そこまでして俺にそんな秘宝を授ける?


「……それじゃあ、エルフの里はもう隠れていないと?あの大樹に施されていた結界も、里の守護も地下も?」


「ええ。その通りです」


「な、なんで!」


 今も公国は【エヴァーグリーン】を狙っている可能性が高い。

 守護も結界もない里は無防備だ。


「構わないのです」


 なんでそんな、自暴自棄のような!!


「――ふざけっ!!」


「ミオ、落ち着け……冷静になれ。わたしたちは自棄になった訳ではない」

「そうですミオ、ここに陛下がいるのがその証拠」


 ジルさんとエリリュアさんに言われるが、どうも納得がいかない。

 証拠にニイフ陛下がここにいるだって?じゃあ他の里のエルフたちは!


『――もう里にいない可能性があります』


「……はぁ〜!?」


 ウィズの言葉に、俺は何も考えないまま気の抜けた声を漏らした。

 部屋全体に聞こえる大きな声で、全員の視線を浴びながら。

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