10−61【天界への階19】



◇天界へのきざはし19◇


 各地で、この村が天界へのきざはしと呼ばれ始めている事を知った。

 あの塔が天まで伸びる階段だと、噂になっていると言う事だ。

 それ単体はいい謳い文句であり、大歓迎なのだが、天界は存在しないという事実……それを知ったらどう思うよ、地球なら詐欺もんの騒動になるね。


「町での噂は外に出て、各地へドンドン広まっていくでしょう、なにせ娯楽という娯楽がないのです。例えば冒険者向けに……「あの塔には天界のお宝が」などと流布する手もあります」


「ダ、ダンジョンじゃないですよ、陛下……」


 優雅に紅茶を飲みながら言うニイフ陛下に、俺は苦笑いだ。

 客寄せにはいいだろうが、施設であってダンジョンではないんだから。


「そうですか?あれだけ大きいのです、そう言った……何と言うのでしょう、遊び場のような場所があればいいと思ったのですがね、ねぇジルリーネちゃん」


「――へ!?わ、わたしですか陛下……」


 急に振られて驚くジルさん。

 しかし部屋中の視線を集めてしまい、答えないのもおかしい状況になったジルさんは、コホンと咳払いをして。


「……そ、そうですね。あの塔の内部は完全に商業施設ですが、現在の階層はまだ数階程度、だったなミオ」


「あ、はい、そうですね。一階は総合受付のような広さを用意してます。ただ今は【コメット商会】の専属のようになってますけど。他は手付かずで、内装も着手していません……と言うか、上層に行く術もないですけど」


 それこそ階段のような。

 ただそれだと、山のような高さを登らにゃならんが。

 そう思えば、エレベーター……この世界で言う昇降機のような物が必要だな。

 それを作れば、あの地下にも簡単に行けるようになるな……電気に変わるエネルギーも欲しいところ。


「うふふふ……それを予測していましたよミオ殿」


「……え?」


「陛下?」


 予測していた?この状況を?

 それとも塔のスカスカな内情を、か?


「エリリュア・シュベルタール近衛騎士。あれをお持ちなさい」


「――はっ!」


 エリリュアさんって近衛騎士なのか。

 名指しされたエリリュアさんは、始めから用意していた荷物の中から何かを取り出す。

 厳重に梱包された……なんだそれ?


『――異常な魔力反応です。これは……』


 ウィズの言う通り、肌がヒリつくような感覚が。

 魔力を感じることが出来る人物ならば、誰もがピリッとするかもな。


「……こ、こちらです」


 しゅるりと、梱包された紐を解くエリリュアさん。どことなく緊張感が感じられた。

 高級そうな木箱の蓋をゆっくりと開けると、その中には。


「宝石……?」


 声に出したのはレイナ先輩だけだった。

 この場のほとんどが声に出さず、異質な空気感に気を引き締められた。

 何故なら……その宝石が放つ異常なまでの存在感に、意識を持っていかれたからだ。

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