10−60【天界への階18】



◇天界へのきざはし18◇


 歴史問題の修復。

 一筋縄ではいかない事案だというのは、この世界の歴史にうとい転生者の俺でも理解できる。

 ましてや百年も前、少なくともこの世界でも二代前と言ってもいい。


「……まずは紅茶でもいかがです?長旅でしたでしょうし、話すには時間もかかります。ティア」


「はい、ご用意しております」


 茶葉は高級品ではない。

 しかし俺が能力で手を加えた。複数人の、舌に自信を持つ人たちの意見を取り入れた一品だ。


「……そうですね。ではお願いしましょう……我が娘が信を置く少年と、わたくしが名を授けた娘の頼み、聞かねばバチも当たるというもの」


「「ありがとうございます」」


 視線だけで合図を送ると、ミーティアはまるで始めから用意してあるかのように行動を始めてくれた。勿論アドリブだ。


 時間で言えば二分、ミーティアがティーワゴンに乗せられた複数のカップを持ってきた。


「まずは俺から頂きますね」


 毒味をするのは当然の対応だ。

 信頼感は陛下からも感じるが、これは国賓こくひん扱いであるなら当たり前だ。


「うん。美味い」


 女神の中ではエリアルレーネ様が一番紅茶に精通していた。

 そのエリアルレーネ様が「美味しいですね♪」と目を輝かせるレベルの紅茶なんだから。


「では……お待たせいたしました、陛下」


「ありがとう、ミーティア」


 俺、父さん、ルーファウスにレイナ先輩、ウィンスタリア様、ニイフ陛下にジルさん、エリリュアさんと護衛の二人にも用意。

 部屋の外にいるであろう【ルーガーディアン】には無い。


「あら、これはまた。美味だわ……」


「ありがとうございます。これは……エルフの里に近い場所から採れた茶葉です」


 公国と言わないところに配慮を感じる。

 事実その通りで、この茶葉はミーティアとジルさんが村に訪れた時に、土産として採って来たものだ。


「……なるほど」


 ニイフ陛下はフッと笑った。

 ようやく冷静になれそうだな……これで。


「それじゃあまず。この場は俺、ミオ・スクルーズが仕切らせてもらいます。先程は少し、冷静ではなかっただろうし、第三者が介入したほうがまともに話せるでしょう」


「そうですね」


「ありがとう、ミオくん」


 ニイフ陛下は優しく笑みを浮かべ、ルーファウスは重い荷を下ろしたかのような安堵の表情を見せた。


「……では、まず順を追って」


 開幕は挨拶だ。

 牽制しあっては意味がない、俺という緩和剤を挟んで、なんとか成立するんだ。


 全員がしっかりと挨拶をし、次は順序を確認。

 今回のエルフ族の来訪の目的、そして問題の歴史問題だ。


「……なるほど。やっぱりあの塔ですか」


「ええ。ここに到着する前、遠回りをして公国内の町に行き……少なからずこの場所はこう呼ばれていますわ……天界へのきざはし、と」


「きざ……はし?」


『――階段の意味を持つ言葉です』


「あの超大な塔は天界へと登ることの出来る、そんな場所なのだと言うことでしょう。女神の恩恵も広まっていましたよ、おそらく公国以外の国にも届き始めているでしょう」


「では王国……じゃなくて女王国にも」


 つまり、シャーロット・エレノアール・リードンセルクの耳にも入った可能性が高い。


「私の商会が今日、各地の町に発ちましたし……情報はもっと得られると思います」


 ミーティアが言う。

 【コメット商会】の会員が三人、それぞれ三国の一番近い町に出発した。

 帝国では【トリラテッサ】、タヌキのお姉さんや優しい老夫婦がいた町。

 女王国では言わずもがな、【ステラダ】だ。

 公国では東南にある【ペルケ】という町、南の【ルードソン】よりも近い場所だ。


「そうですか……」


 なんだか嬉しそうに、ニイフ陛下はミーティアの言葉に笑顔を見せる。

 名付け親だもんな、ネビュラグレイシャーというミーティアの。


「天界へ憧れを持つ人間は多いんだぞ。天使がいるだの存在すら知らない神々が住んでいるだの、与太話に近い話は昔から存在するんだぞ。ウチも信じてたし、天界が存在するって……」


 ウィンスタリア様が言う。

 それって、天界は存在しないと断言しているようなもんだが。

 そしてその言葉に反応できる唯一の存在、ニイフ陛下が。


「存じていますわ。天界、そして魔界は、遥か昔にこの世界に召喚された人物たちがいた世界の事です」


「……」


 転生者ではなく、召喚者って事か。

 天界は天使、魔界は悪魔って感じだろうか。

 そういえばウィンスタリア様は元・天使だったんだっけ。

 かつての先祖たちがいた世界に関心を持つのは分かるな……そして女神に成って真実を知る。といった所だろう。

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