10−53【天界への階11】



◇天界へのきざはし11◇


 公国エリア、ルーファウスとレイナ先輩が指導をする【テスラアルモニア公国】の二分された組織……その面々がこの場所を管理している。


「賑やかね、公国エリアは」


「なにせ一番人が多いからな。ルーファウスを信頼してついてきた少貴族や【ルーガーディアン】、それから」


「ネイル・スパタさんの軍ね」


 正しくそう。


「ああ、ネイル嬢は一旦【ルードソン】に帰ってるけど、信頼の置ける部下を十数人残していった」


「それが彼等ね」


 ミーティアの視線の先には、井戸を掘る青年たち。

 公国エリアにも水場がない。俺が手を入れるのは簡単だが、エリアルレーネ様の――以下同文だ。


「そういう事。やっぱり若者は働くよなぁ……」


「ふふっ、おじさんみたいな事を」


 クスクスと笑うミーティアが、そっと俺の腕に自分の腕を回した。


「……!」


 腕を組んだ。

 肘に当たる感触と体温、控えめに入れられる力に、緊張を感じた。


「人がたくさんいるし……ね」


「あ、ああ、そうだよな!」


 大丈夫か俺!顔赤くなってないか!?汗臭くないか!?ちょっとなにこれ肘の感触凄い鋭敏なんだが!!まるで指先で触れてるようだ!!


「さ、行きましょ」


「お、おー」


 ミーティアの顔を見る余裕がない。

 願わくば、俺と同じく赤面していてくれと思った、そこは年上……残念ながら、その恥ずかしさを隠すのは上手だったようだ。





「――お店もいくつかあるのね」


「そうみたいだな。ルーファウスの協力者の中に、経営者とかもいたんじゃないか?それに格安だし、魔法の国ってだけあって貴重な商品もあるよ」


 公国エリアを見て回る俺とミーティア。

 建物の骨組みは俺が【無限むげん】で、それ以外の外壁や内装は各々で手を入れているが、公国組は人数も多いし若者が多かったのもあって、スピードがとにかく早いんだ。


「公国の人たちは積極的よね。覚えも早いし」


「そうなんだよなぁ〜!年齢のせいか、帝国組……というか【豊穣の村アイズレーン】の村人たちは基本的にのんびりなんだ。これでも急いでいる方だけど、若さには勝てないのか……」


「ふふふっ、もう!」


 俺のおじさんムーブに笑って腕を叩く。

 ぺしりとはたかれた肩に、痛みはなかった、逆に心地よかった。


「あはは、ごめんって」


 公国エリアの進展は一番いちじるしい。

 しかも協力的で積極的、わざわざ問題ごとを起こそうともしないし、これもルーファウスやレイナ先輩の人徳なんだろう。

 コルセルカ家の姉弟は、自由な性格をしていながらも国思いの人物。


 他国で冒険者を目指した姉、世界を旅していた弟。

 それでも国を思い、行動をし、悪政を正そうとしているんだ。


「あれって……レイナ先輩?」


「ん、本当だ」


 小さな露天に、赤髪の少女がいた。

 活発そうな笑顔と愛嬌、振る舞いで周囲に花を咲かせる。


「レイナ先輩って、人気あるのね」


「確かに可愛い系だし、小動物っぽいもんな」


「……え?」


 あっと……これはマズイ。

 軽々しい発言は耳に入る。失言だ。


「あっ……いや違くて、ほら、猫っぽいというか!」


「別に怒ってないわよ?」


 いやいやいや。


「ほ、ホントに?」


「うん。自分が一番可愛いって言われたいとか、思ってないし」


 なるほど。


「そ、それは毎日思ってるから!常に、片時も忘れない、一生思ってるよ!」


 必死の弁明、気恥ずかしさも構わず捲し立てる。

 ミーティアの目を見て真剣に、普段は言わないような事をつらつらと。


「……」


「世界一可愛い!最強に美人!スタイル最高!努力する姿がカッコいい!夢を追う姿勢が尊敬できる!……大好きだぁぁ!!」


 大きな声で、逆にミーティアの頬から耳まで赤くなって照れ始めるまで。


「も、ももも!もういい!もういいからぁ!」


 大好きが効いたのか、ミーティアは俺から一歩引いて赤くなった頬を両手で隠した、その仕草可愛いね。

 嫌われたくない一心で褒めまくった甲斐もあるというものだな……恥はともかく。


 しかしそんな若い男女の光景、見ていた人物も多く。

 小さな赤髪の先輩さんが気付き。


「――なにしてんのお二人さ〜ん?」


「「……あ」」


 まるでこっちが恥ずかしんだけどと、そんな事を言いたいような笑顔で、レイナ先輩がこちらに来るのだった。

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