10−52【天界への階10】



◇天界へのきざはし10◇


 ミーティアと恋人になって、デートらしいデートは初めてだった。

 二人きりの時間は少ないけどあったし、お母さんにも会った。

 でもお互い、今は優先するべきことが沢山ありすぎたからな……だから感謝しよう、クラウ姉さんとイリアに。


「帝国エリアは、【豊穣の村アイズレーン】の人たちが多くいるのよね」


「ああ。俺たちスクルーズの家もそうだし、女神の教会も移転されてる。まぁ特に多いのは、畑なんだけどな」


 帝国エリアの中心になるのが、当たり前だが【豊穣の村アイズレーン】からそのまま受け継いだ施設や畑だ。

 元から農家だった人たちが多いのもあるが、商人ディン・トルタンさんの店や、母さんやアイシアが中心になっていた【豊穣亭ほうじょうてい】。

 子供たちの学校とかも、この帝国エリアに建てた。


「その畑のおかげで【コメット商会】が始動できたんだもの、感謝しかないわ」


「今後は川も引く予定だし、もっといいものが収穫できるよ」


 【豊穣の村アイズレーン】では小さな川があったが、移転されたこの場所には水源がなかった。

 帝国領土の地層はかわいており、育てられる野菜が限られてしまう。

 前の村の地下にあった温室上の地下空間を利用しようとする事も考えたが、なにぶん移動方法がない(俺以外の)。なのでまだ手付かず状態。


「栽培なら王国エリアなのかしら……」


「確かに土の条件はよかったなぁ」


 王国領土の土は、湿り気もあり虫やミミズも多くいた。

 生き物が多くいるということは、それだけ栄養価があるということだからな。


「三エリアでそれぞれ別の栽培をするのも面白いんじゃないかしら」


「お!それはいいな。ルーファウスからは家畜も分けて貰えてたし、前の村でやってた酪農も再開できる!今度は数も多いし、乳製品とかも作りたいな」


「豚も鳥もいるしね」


「ああ!卵料理好きなんだよ俺、だから……あ」


「ん?」


 ふと気付いてしまった。

 これってデートだよな?なんか仕事のことばかり話してる。


「いや……あはは、折角のデートにごめん」


「あ!わ、私も……つい考えちゃって」


 互いに申し訳無さそうに、まるで仕事人間のような発言を反省する。


「じゃ、じゃあここからはあれだな、ゆっくり施設を回って見てみようか」


「そうね、じゃあディンさんのお店から!」


 結局仕事の話ばかりになりそうな気もするが、それも俺たちらしいのかな。


「だな!【コメット商会】の野菜を卸してくれてる一番店だ!」


 しかも村人の購入は、現状タダ。

 育てた野菜で自給自足ができるようになるまでは、基本的に俺が【豊穣ほうじょう】で急成長させた食材を、村人全員に給付する形なんだよ。


「ミオの野菜を美味しいと理解してくれたら、そこから自分も育ててみたいと思ってくれるし、農家も増えるものね……ディンさんともお話したけど、近々近隣の町に商品の仕入れに出るらしいわよ?」


「あーそんなこと言ってたな。ジルさんとジェイルが協力してくれるって」


「うん。私がお願いしたのよ、折角なら【コメット商会】でやれないかって」


 当然、野菜以外も卸さなければやってはいけない。

 【クロスヴァーデン商会】では魔法の道具や医療品、日用品までなんでもござれだったからな。対抗するには同レベルの品を扱わないと。


「近くには川魚が穫れる町、それと鉱山の町もある……」


 鮮魚の扱いは難しいが、鉱石はいいと思う。

 俺たちは結局、仕事の話をしながら移動をし……帝国エリアから公国エリアへ移るのだった。

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