10−50【天界への階8】



◇天界へのきざはし8◇


 突如として現れた、山のような高さの塔。

 それは三国の国境にまたがり、中心となるのは四柱の女神。

 そしてその四柱に加わる……一人の少女。


「……」


「緊張し過ぎよ、アイシア」


 化粧をされるアイシアの表情は強張り、唇も震えるほどだった。


「で、でも……あたし。クラウさぁん……」


「はぁ……見なさいよあの女神たちを、呑気もいいところよ?そこまで深く考えなくても、きっとなんとかなるわよ。それにアイシアのお披露目って言っても、塔の中から魔法を使って、村全体に映像を届けるだけ。実際に見られてる訳じゃ無いわよ」


 アイシアの化粧はクラウがしていた。

 先程ミオに言ったように、協力していたのだ。


「そんな事言われても〜……見られるのは同じなんですよね?」


「……まぁそうね」


 直に見られる訳ではない。それはその通りだ、しかし。

 姿も声も、村人にきちんと届くのだから。


「うぅ……あの、ミオは?」


 目を細めて項垂れるが、ふと気になったのは幼馴染のミオだった。

 女神と話しているときは後ろに気配を感じていたのだが、今はいないようだ。


「デート」


「あ〜」


 簡潔過ぎるクラウの宣言に、アイシアは笑う。

 しかし、少しだけ嬉しかった。


「この塔の村を起こしてから、引っ切り無しに忙しかったですもんね。ミーティアも商会の事やお母さんの事で大変だったでしょうし」


 そんな会話をしながら、アイシアは思った。


「あの、クラウさん」


「なによ」


「そう言えばこの村って、名前は?」


 クラウもキョトンと。


「さぁ?国境村とか、塔の村とか、女神の村じゃないの?」


 化粧を進めつつ、クラウも知らなかった事実。

 三国の国境に存在する新しい村。実際に、名前はまだ決まっていなかった。


 そんな二人に、後ろから。


「……移動したのですし、アイズレーンでは駄目なのですか?」


「あ、イリア。その服可愛いね!」


 茶器をトレーに乗せて持ってきたキルネイリア・ヴィタールは、メイド服を着ていた。


「ふふふ、私の正装のようなものですから……お宿のウェイトレス衣装も可愛かったですが、やっぱりコレですね!クラウもいかがですか?」


「勘弁してよ、もう着たくないわ。それより……アイズレーンにしたら他の女神が文句言うわよ、絶対に。はい終わり」


 化粧を終え、クラウが辟易へきえきしながら言う。


「お綺麗ですよ、アイシア」


「あ、ありがとう」


 女神をイメージした衣装も相まって、妙に大人っぽくなったアイシア。

 幼く見えるクラウとメイド姿のイリアが横にいるからか余計に。


(……村がどんな名前になっても、変わらないよね……あたしもミオも、皆も)


 想いを馳せる。

 かつては何もなかった農村、十数件の家と畑、山と森に囲まれたそんな小さな村が、こうして大きく変貌してゆくその過程を経て……女神と成るアイシアは。


「あ……えた」


 未来をる【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】。

 その光景、その超大な塔が存在する女神の村。


「……世界中枢の村……【アルテア】」


 その未来はどれほどの時間が経過した世界なのだろう。

 アイシアがた光景は、数百数千先の光景か、それともほんの少し先の未来なのか、いずれ判明するその名を、一足先にアイシアは知るのだった。

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