10−49【天界への階7】



◇天界へのきざはし7◇


 女神による宣告。

 それはこの国境の村に点在する、全ての住人に告げられる。

 【豊穣の村アイズレーン】から移動した村人たち、【ステラダ】からの移住者、公国の協力者たちの家族、その全てにだ。


 議題は、新たな女神に選ばれた……アイシアのお披露目だ。


「心配しか無いわね……」


 クラウ姉さんのその言葉に俺は。


「まったくだな。女神に囲まれるアイシアの不憫ったらないよ……」


 それでも自分で選んだ道。

 運命は大きく変わった、けれど、女神と成ることは変わらない。

 アイズレーンの代替品として生まれたのは全くの偶然、しかし結果的には女神と成ってしまう。


「いいように女神に好かれてるわね、アイシア」


「同じ穴のなんとやらって奴なのかな、いい事だとは思うけど」


「……本当に良かったの?」


 流し目で俺を見る、小さな姉に答える。


「良くないよ。だけど……これはアイシアが決めたんだ。村を愛して、人を愛して、全てに平等……だから一人を選ぶことをしない、そうなんだな」


 俺を好きでいてくれた幼馴染。

 その愛は深く、そして広い。

 ただ一人に注がれる物ではなく、世界に浸透する……愛だ。


「アイシアだけに?」


「は?」


 珍しくクソ寒い事を言いだした。


「な、なんでもないわよっ」


 プイッとして礼拝堂へ行ってしまうクラウ姉さん。

 恥ずかしそうにしてたな。柄にもないこと言うからだぞ。


「愛のかたまりなんだよな……アイシアは。さて……俺も行くかな」


 女神の中に入り込むことも出来ず、俺もクラウ姉さんの後を追う。

 教会中央の礼拝堂……立派なステンドグラスが設けられた、いかにも教会らしい場所だ。


「あれ、イリア?」


「あ、ミオ」


「なに、ミオも来たの?」


 礼拝堂の長椅子に座る、ハーフエルフの少女。

 キルネイリア・ヴィタールとクラウ姉さん。


「俺に出来ることないしな、ティアの所に行こうかと思ったけど」


「ミーティアなら塔から戻ってないわよ」


「忙しそうにしてましたね」


「そっか、まぁそうだよな」


 国境の村はバカデカイ塔を村の中心に、北に王国領土、南西に帝国領土、南東に公国領土となっている。Yの字が分かりやすいかな。

 ミーティアは基本的に、四六時中大忙し。


「朝は今日みたいにミオとイチャ付いてるし、昼は塔で商会の打ち合わせ、夕方はお母さんとの時間、夜はジルやジェイルと話し合い。空いてる日は私やイリアとお茶もするけど……」


「それでも最近、お疲れ気味ですよ、ミオ」


 二人の言わんとする事は理解できる。


「……でもなぁ、今はそんな余裕はないのも事実だろ?」


「そこを融通するのが、恋人でしょ?」


「そうですよ、頑張って下さい」


「……アイシアの準備は」


 そもそも今日戻ってきたのは、アイシアのお披露目をサポートするためなのに。

 ミーティアだって本当はこっちに来たがってたし。


「それは女神がやるでしょ、私たちも手伝うし、いいから行きなさい。こういう時くらい、チート能力使って面倒を解決しなさいよ」


 立ち上がって俺の背中を叩くクラウ姉さん。

 イリアも同じく立ち上がって、俺の手を取って。


「そうです!ミーティアだって望んでるはずですよ、頑張り時です!!」


「あ……ああ、善処するよ。あはは……」


 押されてうなずいてしまう。

 恋人らしいこと……それは事が落ち着いたらと、そんな考えだった俺に訪れた、ミーティアとの一幕。


 忙しくしつつも、それでも一時、安らかな時間を望んで。

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