10−44【天界への階2】



◇天界へのきざはし2◇


 ミーティアの母、マリータさんとの対面は十数分。

 長居はできないと俺の方から申し出て、お土産である新しい果物……【スクルベリー】(イチゴ)を置いて退出。


「……はぁ〜……」


「ふふ、おつかれ様。どう?意外と平気だったでしょ?」


「まぁ、優しいお母さんでよかったよ」


 心底安心した。

 十数分、他愛たわいもない話やミーティアの話、冒険者学校での一年の話をし、ミーティアが死んだかもしれないとなった時の心境も聞かされた。

 正直言って、お母さんはとてつもなく過保護の部類に入ると思ったよ。


「お母様は身体が弱い点を除けば、厳しい方よ?」


「そ、そうなの……?でも確かに、責任感は強そうだったな。今までは病気とか環境とか、お父さんの事とかで、かなり負担になってたのかもな」


「ええ、この二ヶ月で沢山お話したわ……それこそ、アレックスさんの事とか」


 婚約者であったアレックス・ライグザール。

 彼は聖女レフィルと共に姿を消した。

 王国騎士団を辞め、聖女の騎士団すらもなくなったこの状況、どこで何をしているのか。


「結婚は有耶無耶、お母さんも反対だったらしいし、これでいいんだよな?」


「うん。彼も行方不明だし……それにそもそもミオ以外とは嫌だし」


「……」


 照れる。

 指先で頬を掻きながら、視線を彷徨さまよわせていると。


「――ああ、ここにいたのね?」


 二人の時間は終わりを告げる。

 今日も短かったな……


「クラウ姉さん、どした?」


 誰かを探していたらしい小さな姉。

 まぁ十中八九俺なんだろうけど。


「どうしたもこうしたも……」


 クラウ姉さんは荷物を抱えていた。

 それは最近ようやくこの国境村でも栽培が始められた、【豊穣の村アイズレーン】で育てていた種類の野菜たちだ。


「その籠、また大量ね」


「まぁね、でも……どう?」


 ミーティアがクラウ姉さんが持つ籠の中身を確認し、中の大量の野菜に驚く。

 クラウ姉さんはそれを見て、俺に聞いてくる。

 俺は籠の中身、一つの野菜を手に取って。


「……微妙いな。これってスクルーズ家うちのやつだよね?」


「そ、全部こんな感じ。虫食いやら成長不充分やらで、味も中途半端……昔の野菜に逆戻りね」


 ガックリと項垂うなだれるベジタリアン。

 しかし困ったな。この場所でなら、新しく野菜を育てられると思ったんだけど。


「う〜ん、土壌は俺の【豊穣ほうじょう】で整えたし、【無限むげん】で栽培状況も万全にしたんだけどな……なんでだ?」


「こっちが知りたいわよ。パパも参っちゃってるし、他の農家なんてこっちに聞きに来るばっかりなんだから」


「た、大変ね……二人共」


 籠の中身は全部が全部、規格外品だ。

 売れないことはないが、折角野菜で名を挙げた【豊穣の村アイズレーン】の名産、このレベルで売るのはプライドが許さない。


『――地下から調査する事を推奨』


「「地下から?」」


 ウィズの言葉に、宙を見上げて反応する俺とミーティア。

 【豊穣の村アイズレーン】には、確かに温室とまで言えそうな空間があった。

 しかし俺ならともかく、村人がそこまで行ったり来たりするのは苦でしか無い。

 だから手付かず状態だったんだけど……まさかここでも地下か。


『塔の素材となった【布都御魂フツノミタマ】が、国境三国それぞれ違う、土壌の成分を妨げているおそれがあります。それぞれの場所で、最適な方法を取らなければ、同じ野菜は育てられないかと』


「帝国領土でのイチゴはうまく行ったんだけどな……」


「【スクルベリー】ね。つまりこの野菜たち……帝国領土である【豊穣の村アイズレーン】で育てていた種類の野菜は、適切じゃないと王国領土や公国領土じゃあ育たない、ってことね?」


『そういうことです』


 ミーティアが説明補足をしてくれたが、なんとも面倒くさい仕様になってしまったものだ。


『ミオの【無限むげん】と【豊穣ほうじょう】のせいですけどね』


「――ぐっ!」


 しれっと言わないようにしたのに、ちゃんとトドメを刺すウィズ。

 し、仕方がなし……それを言われてしまったら、俺が責任を取って土壌改善をしようじゃないか。

 三国それぞれの場所で、最高の野菜が育つようにさ。

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