10−43【天界への階1】



◇天界へのきざはし1◇


 公国からの最初の侵攻から二ヶ月、数回の攻撃を凌いだルーファウス軍のねぎらいをしつつも、国境村は着々と進展していた。


 六月の某日……俺、ミオ・スクルーズ十六歳。

 とうとうこの時が来たんだ、ミーティアの母親、マリータさんと対面する時が。


「へ、平気?」


「……いや、吐きそう」


 仕事相手として対峙した父親とは違う。

 怪我と持病の療養期間が長く、二ヶ月長の時間がかかったが、正真正銘ミーティアのお母さん、仕事とかそんなんじゃなく、完全プライベートで好意を寄せる女性の母親に会うなんて……二度の人生でも初めてなんだ。


「大丈夫?また今度にする……?」


 うっ……ミーティアのガッカリな雰囲気が伝わってくる、このままでは駄目だ!


「いや、会わせて欲しい。しっかりと挨拶しておきたいし」


「そう?じゃあ……」


 ミーティアとマリータさんのために用意された家、その寝室に。

 カチャリとミーティアが扉を開けると、そこには一人用のベッドに横たわる女性、そしてお世話をしてくれているメイドさん(公国からの雇用)がいた。


「では失礼します、お嬢様」


「はい、ありがとうございます」


「し、しつれします!」


 噛んだし!!


「……ふふふっ」


 マリータさんが口元を隠すように横を向いた。

 笑われたじゃねぇか!!


「くぅ……」


「平気平気、いつもの感じで……ね?」


 ミーティアが背中を擦ってくれた……優しい。

 でもそうだよな、緊張はしててもいつもの自分を出せなきゃ意味がなし。

 演技で猫を被っても絶対に駄目だ、ならば腹をくくろう。


 俺はミーティアと共にベッドに近寄り、用意された椅子に腰掛ける。


「初めまして、僕の名前は……ミオ・スクルーズと言います。ミーティアさんとは良好と言いますか、その……真剣にお付き合いさせていただいてます」


「……そう、貴方がね」


 話はミーティアに何度も聞いているはず。

 それ以前にも、【ステラダ】の家で旦那……会長から聞いている可能性はある。

 ミーティアが無理を言って、成人までにと……条件を突き出したんだからな。


「はい、一度も挨拶をせず申し訳ありませんでした」


「それはこちらもですよ、私もこんな身体で……あの人もああいう人だから」


 ミーティアにゆっくりと身体を起こされながら、マリータさんは起き上がった。

 大木で倒れていたときよりも、遥かに血色もいい。

 新たに育て始めた野菜を食べているからか、持病も改善されていると聞いた。


「いえ、会長には農園の野菜を売ってもらっていた恩義があります。でも……やはりミーティアさんの事は……納得できなかったので」


 奥さんであるこの人に言うのは心苦しいが、これが俺の決めた事だ。


「構わないのよ、あの人はもう……多分、引き返せないから」


 家族を切り捨ててでも成り上がった、王国大臣とまで。

 それでも尚、娘のミーティアを探しているのは……


「ミーティアさんは、僕が必ず守ります。その……お、お義母さんも」


「ミオ……」


「あら」


 ダンドルフ・クロスヴァーデンがどう思おうと、ミーティアを好きにはさせない。

 何が目的かは知らないが、家族を切り捨て、利用し、私利私欲の成り上がりを認めるわけには行かないんだからな。

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