10−42【呆気ない結末3】



呆気あっけない結末3◇


「自分の失態で娘に頭を下げさせる気分はどうです、スパタ伯爵」


 さげすんだような声音でそう言うのは、ルーファウスだった。

 おおっとぉ……すげぇ目で見るじゃないか、まるで別人だぞ。


『――自国民ですからね。態度で示さねばならないのでしょう。ミオも一国の主となれば、いままでのおちゃらけた態度では駄目よ』


 おい、誰も王様になんてならねぇよ。あと半分アイズだろ。


「ワ、ワタシの……失態??」


 オロオロした態度を見せるも、スパタ伯爵から自身の過失を気付いている様子は感じられなかった。こりゃ重症だ、いままでよく町一つを纏めてたな、このオッサン。


「そうです。貴公の単独行動、考えなしの妄言……見るに堪えなかったのですよ、ネイル嬢は」


「!!そ……そんな」


 崩れる娘に、信じられないような視線を送る。

 どこまでも自分本意……時にそれは武器だし、俺も人によっては自分本意になれと言うときもあるが……これは駄目な例だ。

 自分本意になれる人物は、あくまで周囲を見て判断できる器量がないと無意味だからな。


「お願いします、どうか……」


 父にそのような視線を受けても、ネイル嬢は部下たちの処遇を求めた。

 俺たちも鬼じゃない、ルーファウスだって、無駄な殺生をしたいわけじゃないだろう。


 ルーファウスは伯爵を放置して、ネイル嬢に歩み寄って手を差し出す。

 先程とは違う優しい笑顔で。


「顔を上げて下さい、ネイル嬢……僕たちも、降伏してくれるのならそれで構わないんです。先導者であるお父上だけは……国の法にのっとりたいと思いますが」


「……はい」


 これには俺が口出しできる問題じゃないな。

 いくら国境村とはいえ、ここは公国領土に当たる場所だ……ルールは守らねば。


「そ……そんな……そんなぁぁぁぁ!」


 こうして、国境村の初の防衛戦は幕を閉じた。

 戦闘時間はわずか数分、死者はなし。被害は、馬が数頭負傷したが、それも軽傷。


 そして今回の戦いの先導者、ツァンド・スパタ伯爵の最終的な処遇はこうだ。


 ・【ルードソン】統治者、ツァンド・スパタ伯爵の爵位を剥奪し、南方【ラウ大陸】にある孤島へと島流し。

 ・新たな【ルードソン】の統治者として娘ネイル・スパタ嬢へ子爵の称号を与え、【ルードソン】の国境村への全面的な協力を確約。

 ・スパタ伯爵の配下だった人物たちは、娘へ移譲……そのまま雇用するものとする。

 ・今回の戦いの損害は全額スパタ家が負担をし、ルーファウス・オル・コルセスカへの忠誠を以って返済とする。


 だそうだ。


 ツァンド・スパタの命を奪わなかったのは、ルーファウスのネイル嬢への温情だろう。彼女は心強い協力者だ、頭もいいし父親と違って理解も早い。

 だから最低限度の生活を保証し、小さな島で数人の部下と一生だ。


 そしてこの戦いを発端として、公国の軍隊は攻め込むことを決定したらしい。

 しかし、そのことごとくをルーファウスたちは撃退する。

 スパタ伯爵とは打って変わって、実力者も多かったが。それでも数ヶ月、ルーファウスは負けることなく、公国の正規軍を追い払うのだった。

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