10−41【呆気ない結末2】



呆気あっけない結末2◇


 ネイル・スパタの手を控えめに取り、【転移てんい】で城壁の向こう側へと移った俺たち。

 当然のことながら、ネイル嬢は驚嘆きょうたんの表情で周囲を見渡した。


「――こ、ここは!?え?あ、あの壁の向こう……??」


 キョロキョロと見渡し、周辺の景色で判断したようだ。


「そう。それじゃあ俺は他の部下さんたちを連れてくるから、ソフィレットさん案内よろしく」


「え!?」


「かしこまりました、ミオ殿」


 俺は驚くネイル嬢を放置して【転移てんい】。

 敵陣テントまで移動すると、困惑する部下の人たちがいた。


「……次はあんたらだな。あっちでネイル・スパタ嬢も待ってるから、各々俺の身体に掴まってくれ、移動の魔法で一気に移動するから」


「え?」

「へ?」

「は?」


 言葉忘れたんか。


「ほれ、ネイル・スパタ嬢を待たせるのか?そうこうしているうちに、戦闘終わるぞ?」


「は、はい!」


 一人の男性が俺の手を取ると、部下の人たちは次々に俺の身体にくっ付く。

 いや、うん……いいんだけどさ。


「二〜三回で済みそうだな、あぶれた人は少し待っててくれ。もう一度くるから」


 シュン――と消えて、再度【転移てんい】。


「じゃあ次」


「「ええ!?」」


 数が少ないからまだマシだし、魔力の消費も多くはなかった。

 これなら無理やり掴まってもらえれば一気に行けたな、気持は良くないけど。




 そして部下の人たち全員を待機させて、俺は防壁の上部へ。

 ディルたそが案内しているはずだからな。


「お、いたいた……どうだい首尾は」


「ミオ殿、今終わりましたよ。ルー様の勝利です」


 ディルたそは笑顔で拍手をした。

 それに合わせて他の【ルーガーディアン】の面々も嬉しそうに続く。

 この人たち、ルーファウスが旅している間に、裏で色々と準備をしていたらしい。

 だから勝利も一入ひとしおに嬉しいんだろう。


「流石ですルーファウス殿……しかしお父様、貴方というお方は……」


 敗戦した父を見て、なげかわしそうに俯くネイル嬢。

 一旦の静寂の後……彼女は顔を上げて俺に言う。


「ルーファウス殿の代行と、仰っていましたね……ミオ殿」


「ああ、何でも言ってくれて構わない。俺の意思がルーファウスの意思だよ」


『――ネイル・スパタは交渉をしようとしています。おそらく父親の命……そして配下の処遇でしょう』


 だろうな。戦いをふっかけておいて、はいごめんなさいじゃ済まされないことは分かっているはず。

 先導した父親ツァンド・スパタ伯爵、並びに配下数百名の処遇を、彼女は交渉するつもりなのだろう。


「私たちスパタ陣営は、全面降伏を以って……ルーファウス・オル・コルセスカ殿に忠誠を誓う所存……」


 頭を深く落とし、涙をこらえながら。


「ですのでどうか……配下たちの命だけは。爵位も家も、必要ありません……ですのでどうか、どうか……」


 崩れて膝を折る。

 父の命を覚悟し、せめて配下だけはと懇願する。

 自分の失態で娘に頭を下げさせる……どんな気分だよ。


 俺は心内でそう呟き、視線を送る。

 そこには、戦闘を終え戻ってきたルーファウスと、崩れ頭を下げる娘を見る、馬鹿な伯爵様がいたのだった。

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