10−37【防衛戦3】



◇防衛戦3◇


 その日、国境村で初めての戦闘が行われた。

 場所は国境の巨塔から南、【テスラアルモニア公国】の領土だ。


 侵攻するのは公国南方の町、【ルードソン】を治める貴族、スパタ伯爵。

 魔法剣士で名を馳せているらしいが、行動の遅さや信頼の欠如が目立つな……と言うのが、俺の感想だった。


 そして場所が場所だけに、簡単に言えば、今回の戦いは公国の内輪揉めである。


「ルー様、前方に複数の小隊を確認しました!」


 国境の巨塔から南に進んだ場所に設けた防壁。

 小規模の部隊と、複数の管理人が点在する小さな拠点だ。


「……どれどれ」


 今回、俺は何もしない。

 と言うか出来ないのが実在だな。

 だから今日の俺は、単なる見学人だ。


「あれ?まさか……」


 第一陣の小隊の中に、カイゼル髭が目立ついかにも貴族な男が視界に入った。

 おいおいおいおい、まさか先陣切って大将が攻め込んできたのか?


「噂通りです、スパタ伯爵は自信家。僕のような若輩など、最小の戦力で制圧できると踏んでいるのでしょうね」


「マジかよ」


「ルー様を下に見るなんて……許せないっ!」


 【ルーガーディアン】の筆頭であるらしい女性、名は確か。


「そうでもないですよ、ソフィレット」


 そうそう、ソフィレット・ディルタソさん。

 ディルたそ〜と呼びたくなる家名だ。


「ですがルー様!あの面長チビ貴族は舐めかかっています!」


 めちゃくちゃ言うじゃんディルたそ。


「彼は自信家ゆえ、舐めているわけではありませんよ。余程自信があるのか、それともただの……」


 俺もそう思う。ただの……バカだ。





 スパタ軍総勢三百、自陣を展開す。

 森林を伐採し、広めにとった自陣には、複数のテントがある。

 その一際大きなテントに、その男はいる。


 低身長で、身体の五分の一が顔。

 長めの顔と固めに固めたカイゼル髭が特徴の貴族、ツァンド・スパタ伯爵。


「ふあぁ〜はっはっは!なぁにがコルセルカ公の子息だ、なぁにが公女だ……このワタシが出陣すれば、僅かな時間で今回の騒動を終わらせてやるぞ〜!」


 そう言い出して、早数週である。


「それにしても大層な塔よ、そこのお前!首尾はどうか!?」


「はっ、塔には近付けておりませぬが、防衛ラインと思われる防壁を確認しております!そこにはコルセスカ家の御旗……槍の旗も確認しております!」


「ふぅんむ、やはり!ワタシの思った通りだ!!」


 ワイングラスを一気にあおり、赤い顔で鼻息を荒くする。


「と、言いますと?」


 部下の男に問われるが。


「そ、それくらいは自分で解明しろ!まったく、だからスパタ家が一枚劣ると言われるのだ!」


 「「「……」」」と、無言の部下たちだが。

 ただ一人、反を入れる人物が。


 塔の視察から戻り、カツカツとヒールを鳴らして。


「――お父様、そこまでの大見得を切るのです、さぞかしご立派な戦略がお有りなのでしょう、ならばそれを……見せて頂けますか?」


「む!ネ、ネイル……そ、そんな強い言葉を言うものではないぞぉ……」


 反論をしたのは、実の娘だった。

 ネイル・スパタ。数年前、十三歳にして父の身長を越し、今や175cmセンチを誇る十六歳の少女。


「防壁は、見たこともないような材質の巨大な壁。各所に魔法発動用の小窓があり、弓や投石もできるでしょう、地の利は完全に不利、高所を取られた以上、我々ができることは限られます……さあ、お父様が見せてくれる作戦は?」


「……う、うぅむ……しかしなぁ――いや!!ワタシは正しい!このまま突破してくれるぅ!!付いてこぉぉぉい!」


 そう言い放って、スパタ伯爵はテントを出ていった。


「……」


「ど、どうしますか、ネイル様」


 心配そうな部下の声。

 ネイルは溜め息を吐いて。


「はぁ……勝ち目はありません。ルーファウス殿が展開する陣は堅牢、更には後方に……」


「後方に……?」


「いえ……なんでもありません。ただ、このいくさは負けるでしょう。その準備だけは忘れぬように」


「は、はい!」


 いそいそと準備をしだす部下の男。

 その様子を見ながら、ネイル・スパタは覚悟を決めた。

 この戦い、始まりの戦いで、既に決していると判断したその判断力が、やがてルーファウスの片腕になるという事が、この先すぐに知れ渡ることになるのだった。

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