10−38【防衛戦4】



◇防衛戦4◇


 戦場に煙が舞った。

 それが銅鑼どら代わりとなり、戦いの合図となった。


「ご丁寧に馬で突撃してきたが……」


「で、ですね……流石に自信が過ぎると思いますが」


 ミオとルーファウスは、防壁の頂上から観察していた。

 その素直過ぎる戦略?に呆れつつも。


「俺はてっきり、大盾でも使って魔法や弓を防いで、慎重に攻め寄ってくるもんだと思ってたんだが?」


「……ええまぁ。馬には馬鎧バーディングも着せていませんし、これは独断ですね……なんて愚かなことを」


 呆れを通り超して、感動しそうだとミオは笑う。


「これなら楽勝、ルーファウスの言う通り、俺の出番はなさそうだ」


「ふふっ、当然です!」


 ミオの言葉に笑ってうなずくのは【ルーガーディアン】の一人。

 ルーファウスに寄り添うように書類を持ち、観察する女性。


「あの、暑いですピュリム」


 その女性は戦闘に適してはいないが、こうしてルーファウスの補佐をする役目だった。つまりは戦時で一番ルーファウスの隣りにいるという事、【ルーガーディアン】の中で、他の女性に嫉妬される人物だった。


「いーえルー様、あのやからはまったく分かっておりません。こうして防壁にしているのも、被害が増えないようにとルー様のお優しいご意思なのに」


「いや、それはミオくんの……」


 己の世界に入り込み語るピュリムに、ルーファウスの否定は届かない。

 ミオも苦笑いしている。


「ルーファウス、そんなこと言っているうちに……ほれ」


「――!」


 ミオが親指を外に向ける。

 すると少し遠くの位置から……なにやら叫ぶ男の姿が。


「嘘でしょう……」


「それな」


 呆れてものも言えない二人。

 ピュリムに至っては、苛立ちで顔が歪んでいた。


 防壁から見える風景は、仁王立ちでこちらに叫ぶカイゼル髭の貴族。

 まるで怒号を浴びせるクレーマーのように、「出てこーーーい!!」と声を上げていたのだ。


「――ルー様!いかがしますかっ!?」


 下から、協力者ソフィレット・ディルタソが指示を求める。

 それに対しルーファウスは、これまた随分と冷めた目で。


「迎撃します。魔導師は詠唱を、弓兵は馬を狙ってください、近寄られたら石を落とし、登らせてはいけません」


「了解しましたっ!」


 ミオはその冷徹さに。


「話し合いでもするのかと思ったよ」


「流石にあの馬鹿な態度をとがめないわけにもいきません。これでは公国の戦い方が……はぁ〜……」


 凄い溜め息だった。


「ま、まぁな……分かるよその気持ち」


 ルーファウスに取っても、スパタ伯爵との戦いは気合の入るものだったのだ。

 それがこのザマ。大将みずから戦場の真っ只中に飛び込み、あまつさえ仁王立ちで叫ぶ始末。

 これが公国の戦い方だと思われるのはしゃくなのだ。


「徹底的に潰しましょう。しかし被害は少なく、損害が出ないように……お互いにね」


「お手並み拝見だな、これぞ公国の戦い方だって見せてくれよ」


 ニカッと笑うミオに、この戦いの敗北は見えていなかった。

 誰が見てもそう思うであろう、なんともガッカリな初戦の始まりだった。

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