10−34【コメット商会13】



◇コメット商会13◇


 ジェイルに言われるまで、考えなかった。

 ミーティアの商会だからミーティア商会、そんな安直過ぎる名前にする訳はないだろうが、まさか【クロスヴァーデン商会】を名乗るわけにもいかないよな。


「商会の名前かぁ、ティアは考えてんのかな」


「はぁ……お前もお嬢様も、案外呑気だな」


 何故かあきれられたが。


「商会も幅広い、同じ名は使用できないと言う縛りもあるんだぞ」


「え、マジ?もしかして名前に権利とかもあんの?」


 勝手に名前を使用できないとか、そもそもの著作権的な?


「端的に言えば、ある」


 あるんだ。


「ならどうするかな、ティアに決めてもらうのがいいと思うけど」


 そりゃあ自分の店なんだしな。

 しかし……名前って意外と面倒なんだな。


「お嬢様にぴったりな名がある。それに、ダンドルフ・クロスヴァーデンに対抗するには打って付けの名がな」


「……なんだよその顔」


 ニヒルに笑うジェイル。

 なんだかんだで、意外と明るくなったよなこの人。


「大々的に名を売り出すのなら、必要なのはインパクトだ……だが、目的の一つはダンドルフの商会である【クロスヴァーデン商会】だろう。俺が最後に報告をして、その後はダンドルフが復帰しているはずだ……おそらくだが」


 信用できる部下がいないと、自然とそうなるか。

 しかし大臣と会長の二足の草鞋わらじか……何気に大変だろう、同情はしないけどな。


「忙しいんだな。それでいてあんたに追手を差し向けたんだろ?よくやるよ……んで、そのぴったりな名前って……?」


 ダンドルフ・クロスヴァーデンの活力に嫌になりつつも、ジェイルに聞く。

 いや別に、ジェイルが提示した名前にするとは言ってないぞ?

 自分で考えるのが億劫おっくうだとか、そんなんじゃないからな。


「……ミーティアお嬢様の祖母の名だ」


「ティアのお祖母さん?」


「そうだ。名を――コメットと言う」


 それは、クラウ姉さんが聞いたジェイルの過去。

 ミーティアの祖母、ダンドルフ・クロスヴァーデンの母親である女性の名。


「コメット……彗星か、確かに流星ミーティアにぴったりかもな。しかもそうか……これならダンドルフ会長にも、少なからず伝わる。抵抗の御旗みはたにするのは効果的だ」


 これは大きい提示だ。

 もう決定的と言ってもいい、コメット……【コメット商会】か。


「名前のインパクトは少ないが、印象は与えられるだろう」


「ああ、自分の母親の名が付けられた商会……絶対にティアのものだって気付くだろうしな。ティアがいいと言うなら、それで行ければいいと思うよ」


 俺に反対意見はない。


「分かった。実はもうお嬢様には進言してある」


 なんで俺が後なんだよ。普通逆だろうが。


「ふっ、お嬢様がお前がいいならと、そう言うものでな」


「あーはいはい、信頼されてますよ……だからその顔やめろ!」


 最近ティアと仲を深めるたびに、周りがおちょくってくるのを止めさせたい。

 そんな俺とミーティアの、世界一を目指した商会の名は……【コメット商会】、歴史に名を残す予定の商会の――誕生だ。

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