10−33【コメット商会12】



◇コメット商会12◇


 村人の移動は簡単ではなかった。

 大きな原因としては、俺の【転移てんい】で行う移動を、エリアルレーネ様が禁止したことだ。


 「人間が駄目になります♪」その一言で、労力をしっかりと使うことに決まった。

 新たな村を作る覚悟をきちんと芽生えさせて、自分たちで村おこしをしている自覚を持たせないと駄目らしい。

 食料や建材を運ぶ作業、野生の鳥や家畜となる動物の確保、農具となる木や石の回収。

 全部もとから村にいる人たちをメインに行った。


 そうすることで、村人も一定の層に分かれると言う事実が生まれる。

 カーストではないが、古参の村人、移住者、公国の協力者と……そんな感じだ。

 そしてそれは競争意識を生む。


 「いいわね、こういうのを見るのも」「人間の営みですよ」「わははは、競え競え〜」「くっだらないわね」――女神の会話だ。


 最上位である女神、そして転生者の俺たち……村長ルドルフや古参の村人。

 ミーティアやジルさん、ライネやルーファウスたち。

 それらの様に活躍すれば、自分たちも優遇してもらえると、頑張りたいという意識が生まれたんだ。

 女神は、その人間ならではの浅ましさを褒めた。


 これが繁栄する為の、本来持っている人間の凄さなのだと。





 国境の塔一階から、俺は外に出る。

 見事に三国国境のド真ん中にそびえ立った、山のような高さの塔。

 リアルなことを言えば、絶対に日照権で揉め事が起きそうなレベルだった影だが……今はそれはなくなっていた。


「影を消せるとはなぁ……」


 見上げる塔には、影が一切なかった。


『――転生の特典ギフトをもとに建てられた建造物ですので、一定の魔法が反映されます。影の消滅、それから遠方からの視認の阻害です』


「それだけで、異様さが際立つんだっつの」


 エルフの大樹、それと同じだ。

 遠くからは視認できなくても、近付けば確認できると言う方法だ。

 今は襲撃対策で遠方からは見えなくしているが、落ち着けば見えるようにして客寄せとするそうだ。


「――ミオ」


「ん……ジェイルか、あっちはいいのか?」


 怪我をしてたジェイルも、身体を動かせるまでは回復した。

 動けるようになったと思ったらこいつ、いきなり仕事を寄越せと言い出す始末。

 だからジルさんの手伝い、つまりミーティアの手伝いをさせているんだ。


「ああ、お嬢様に言われてな……」


 肩を落とすジェイル。

 何を言われたんだ……


「ティアは目まぐるしく動いてるな、夜はお母さんのお世話もしてるし……すげえ行動力だよ」


「そうだな。ジルも以前より、お嬢様と交流を深めている。それに……まさかダンドルフ・クロスヴァーデンに対抗する商会を起こすとはな……」


 しかもこの塔の中にな。


 ミーティアの商会は……村一番の収入源になってもらう手筈だ。

 これはもう確定で、【ステラダ】に卸していた野菜をメインに、売れそうなものは何でもかんでも売る予定だ。

 俺が【無限むげん】で加工をし、最高級品に昇華させ、更には安値で売る。

 勿論、詐欺まがいな行動はできないので、高いものは高く売るが。

 それでも自信がある。俺にもミーティアにも、下馬評というものがあるのなら、それを覆すほどの自信が。


「それで……商会の名は?」


「え、は?名前……?」


 そういえば……中々後回しになっていたかもしれない。

 その名を、世界一の商会の名が決まる瞬間を。

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