10−32【コメット商会11】



◇コメット商会11◇


 四月が二週に入ったある日、その書状は届いた。

 村では完全に村人たちの説得が終わり、国境付近に移動する結論が出た頃であり、塔の整備と商会の準備は少し遅れているが、それでも順調だった。


 そして……その書状とは、王国からの大陸全土への通達だった。


「――王国を女王国へと改名する事の通達、だそうです……アイズレーン様」


 書状を読んだのは父さん、村長ルドルフだ。

 場所は村の地下に設営した大きなテント。教会の手前にある。


「ご苦労様、ルドルフ。内容はそれだけかしら?」


「はい、なんとも簡易なものです」


 テーブルの上にその書状を広げ、皆に見えるようにしてくれる。

 それを見たクラウ姉さんは、苦しそうに喉元を押さえて。


「……これ、近隣諸国に通達してるのよね」


「……だろうね。多分公国とか、他の国にも行ってるだろ」

(確定だ。クラウ姉さん……首、女王シャーロット……死因)


 会話をしながら、俺はその予測の確証を得た。

 女王シャーロットを思い浮かべる度に、深淵から這い上がってくるような悪寒と、前世での死因となった痛み。

 俺は能力――【哀傷あいしょう】によって、その痛みをキャンセルできるようになったけど、姉さんは違う。


 【ステラダ】にいた時に会話した、クラウ姉さんの死因は……絞殺。

 前も喉元を気にしていたし、確定だと自信を持てる。

 問題はそれをクラウ姉さんに告げるべきなのか……だ。


「――聞いてんの、ミオ?」


 脳内会議の途中に釘刺し。

 クラウ姉さんにとがめられるが、話は聞いていたさ。


「聞いてるよ。セリスにはライネから伝えてもらう、【ルーマ】だっけ?通信魔法の道具、あれなら一瞬、この世界の電話みたいなもんだもんな」


「「デンワ?」」


 首を傾げるのはジルさんとルーファウス。

 電話はないからな、気にもなるか。


「俺たちの住んでた世界での連絡手段だよ。大人から子供まで、ほぼ全員持ってるようなもんで、【ルーマ】のような置型だったり、携帯電話って言って――」


「それはどうでもよくない?脱線してるわよ?」


 うん、た、確かに脱線している。


「わたしは気になるが……」


「ぼ、僕も」


 続きを聞きたがる二人だったが、アイズが呆れた顔で恐ろしいことを言う。


「魔石さえあれば幾らでも製造できるわよ。知識があるんだし、機械技術さえ発達すれば、あっという間に追いつくレベルじゃない?」


「……まぁ可能ではあると思うよ。魔法なんて便利なものがあるんだ、それを応用した技術を用いれば、魔法携帯……みたいなアイテムは作れるかもな」


「「おお〜!」」


 パチパチパチ……と、ジルさんとルーファウスからの拍手。

 エルフの里にあった【ルーマ】は水晶型だったけど、帝国組の【ルーマ】は形状が違った。だからそれを考えれば、形は関係ないんだと思う。

 その形をスマートフォンのように整えれば、って何の話してんだ俺は……


「ゴホン……それで、王国はこの書状を大陸全体にばらまいてどうするつもりなんだろうな、宣戦布告ってなら、帝国だけでいいだろうし」


 聖女の件で一度、そして前回ジェイルを追ってきた時。

 短期間で二回の侵攻があったんだ。冷静に考えれば……脅迫とも取れるからな。


「……塔はどうなっていますか?ミオ」


 端っこに座るエリアルレーネ様が、今日初めて口を開いた。


「はい、エリアルレーネ様。塔の周辺は、ルーファウスの部下である方たちのおかげで整備が整いつつあります。この村の若い衆もしっかり働いていますし、順調ですよ。塔の内部も、三階層までは綺麗に出来ました」


「ふむ……そうですか、ならば――そろそろ村の移動を開始しましょうか。セリスが帰ったのは、“ある説得を行う為”です」


「そうでしたね」


 セリスが帝都まで戻ったのは、公国やエルフの里の貢献度に負けないためだ。

 公国組は人員や食料を、エルフの里は土地を始め、ジルさんやサイグスさんたちの協力を。

 一方で帝国組は、転生者が数名……しかも半数が負傷者だった。


「セリスが皇帝を説得さえできれば、直ぐに帝国兵団が派遣されてくるでしょう。まぁ距離が距離ですので……数ヶ月はかかるでしょうが」


「それまでには移動しておきたいわね〜」


 アイズの言う通りだ。

 幸いにして、塔までの距離はここから然程遠くはない。

 人数も少ないし、そう時間は取られないだろう。


 こうして、新たな村の誕生へ向けた、本格的な引っ越しが始まるのだった。

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