10−30【コメット商会9】



◇コメット商会9◇


 地下教会に戻ると、用意された部屋にミーティアたちがいた。


「入れる空気じゃないよなぁ」


 眠る母の手を握り、心配半面嬉しさ半面で見詰めるミーティア。

 自分が【ステラダ】を離れた時、多分……母親との関係へもケジメをつけようとしていたはずだ。

 それがこんな形で再会できるとは思っても見なかっただろうしな。


「……もう安定し始めてるし、少し二人きりにさせてあげたら?」


 後ろからそんな言葉を投げかかられる。


「分かってるし」


 過保護のように、そんな事を言う小さな姉。


「それよりジェイルは?ベッドに運んだけど、まだ?」


 まだ、と言うのは……治療拒否の件だ。


「ええ、どうして拒否るのか知らないの?」


「さぁね、勝手に傷を塞いだ事も怒りやがるし……償いのつもりなのかもな」


 ジェイルは村に来てからも、姉さんの【治癒光ヒール】を拒否していた。

 俺の治療と言うなの【無限むげん】も、まさかの元に戻せと来た。

 流石に穴だらけの身体に戻したくはねぇよな。


 俺とクラウ姉さんは別室に移動。

 そこにはベッドに横になるジェイルと、拳を握るジルさんがいた。


「はいはいそこまで、ジルさん。ジェイルは一応怪我人な」


「一応じゃなくて重傷人よ」


「お〜二人共……二人からも言ってやってくれこのわからず屋に!」


「わからず屋はお前だジル、俺は大丈夫だと、何度言えばいい」


 帰って来てずっとこれなんだ。

 二人の距離というか、気まずさの中でやっているのは分かるが、どちらかが折れてくれないか。


「元気そうなら無理には治療しないけどさ、説明だけはさせろって。ジェイル、一体何があってこっちに来たんだ?追手は……見たところ聖女レフィルの兵士たちだったけど」


「あれはダンドルフ・クロスヴァーデンの私兵だ。聖女の兵と言うのは事実だが……あれが【王都カルセダ】には無数にいる」


「あの不死身の兵士が、そんなに?」


 嫌そうに顔を歪めるクラウ姉さん。

 そりゃそうだよ……対処法が分かったとはいえ、それは死だ、嫌にもなる。


「聖女はまだそんなにも兵士を残していたのか……あれで全部だとは思わなかったけど、厄介だな。その聖女レフィルは?」


「王都には戻っていない。お前たちが撃退したのだろう?【リューズ騎士団】の生き残りがそう証言していたぞ」


「【リューズ騎士団】の?あいつら聖女との戦いを見てたのか……」


 もしかしてあれか、イリアの事をさげすむ真似をしたっていう移住者の一人。村の炎上後、行方知れずだった奴が居ると言っていたし……そうだろうな。

 その生き残りが王都まで行って、そう証言したのか。

 聖女はあれだけの怪我を負ったんだ、それに逃走した方角は南西、帰ろうとすれば【感知かんち】に反応があるはずだもんな、この村を通るんだし。


「逃げた移住者だと思うわ」


「あ、やっぱり?」


 姉さんが言う。

 思った通りそうだな。


「お前たち……呑気すぎるぞっ!ぐっ……うぅ……」


 ジェイルが叫んだ。

 しかし傷が痛そう。【無限むげん】で穴を塞いだとはいえ、内側は手を入れてないし筋肉とかまだズタボロだろうしな。


「まずは療養してくれよ、話はまた聞くし、ティアのお母さんが目を覚ましたら……その、ほら、なぁ?」


「ミオの緊張は関係ないでしょ。精々格好つける準備しておきなさい、ふふっ」


「……ひっでぇ、だってお母さんだぞ……」


 そんなおちゃらけを見せる姉弟。

 ジルさんもジェイルも、こうやって少し肩の力抜こうぜ?

 その方が余裕を持てるよ、例え王国の兵士が村に来たって言う事実があろうとも、地形を変えるような力を見せたくせに平気でいるようでも。

 せめて明るくいるって決めたんだ。そうすれば、きっと未来も明るいんだからな。

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