10−29【コメット商会8】



◇コメット商会8◇


 あっけないもんだ。

 たった一言、能力の名を呟いただけで……二百人の命が失われた。


『――聖女の【奇跡きせき】が作用した肉体は、進化した【無限インフィニティ】でも解除できません。兵士たちのパーソナルデータも知らない以上、消滅させる以外の方法で解決は出来ませんでした。ミオが気にすることではありません』


「そうかもな。でもここまで簡単に地形まで変えられるとは……まるで――」


 神だな。


「――ミオ……お前は、まさか始めからこうするつもりだったのか?」


 お、察しが良いな。

 流石はジェイルだ。この地形を見て理解したか。


「そうだよ。これでこの周辺に接近はしにくいだろ?王国との戦いを見越せば、簡単に近付かれても困るしな」


「俺を助けたのはついでか……」


 そう言うなよ。

 平原は不利だし数で攻め込まれたくないしな。


「違うって、ティアのお母さんを連れてきてくれただろ?そんな人を見捨てるわけ無いじゃないか、ははははは」


 座り込むジェイルの呆れた顔に、俺はあくまでもついでは逆だと主張する。


「お前が来たということは、マリータは無事なんだな?」


「マリー……あ〜ティアのお母さんか。無事だよ、傷も治療したしな。あんたよりも軽傷だっての。ほら……見せろって怪我、まだ完全じゃないだろ?」


「……構わん、それよりも村は平気なんだな?お嬢様も、ジルも」


「平気じゃないけど、まぁ大丈夫だ。皆は無事だよ……さてと、お手を拝借するぞ?」


「おい、俺にそんな趣味は――」


 俺にもそんな趣味はねぇよ。

 そんなツッコミを入れる間もなく、【転移てんい】で移動する。


「――ない……ぞ!?」


「はい到着、ジルさんの気配は……あそこだな」


 【転移てんい】した場所は先程の大木の場所だ。

 既に三人はいない。そして近くの気配は……ジルさんだ。


「お、おい!今のは……」


 フラフラと立ち上がるジェイルだが、説明する暇もなく。


「――ジェイル!!ミオ!」


 愛馬ファルに乗って到着し、降りて直ぐジェイルを見る。


「ジル、すまなかった」


「何がだ!!」


 突然の謝罪にキレ気味に。

 確かに分からないけど。


「す、すまない……俺は――」


「そんな事はいいんだ!お前は……どうしていつも言葉が足りないっ、わたしたちのもとに来たということは、ダンドルフへの恩は返したということだろう?」


 ジェイルの肩を掴んで、ジルさんは言う。

 クラウ姉さんが言ってたな、ミーティアの父親への恩義、それを返すまではと。

 ジェイルが俺たちの所まで来たのなら、解決したと言うことなんだろう。


「それは……」


「まずは村に戻ろうぜジルさん、ジェイルもだし、ティアのお母さんも心配だ。あの場所は……まぁ俺が後で自然の要塞にでもしておくからさ」


 そう言って、俺は二人の手を取って【転移てんい】をしたのだった。

 ジルさんの愛馬は……うん。その後迎えに行った。

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