10−23【コメット商会2】



◇コメット商会2◇


 更に数日が経過し……そろそろ四月に差し掛かると言う頃合いで、その出来事は起こった。

 新年度なのだから出会いもあるだろう。しかし、そんな真新しいものではなく。


 トンテンカン――と、まるで日曜大工の一般家庭から聞こえてくるような音を俺が立てていると。


『――ミオ。村の近隣で戦闘が発生しております』


「なんだよ、また急だなぁ……」


 今日も等内部の作業をしていた俺とミーティア。

 そこにウィズからの報告が飛んできた。


「ミオ、こっちは一人でも平気だから行ってあげて?」


 作業を停止し、ミーティアがそう言ってくれるが。

 うぅむ……二人の時間が。


「いや、でも村にはクラウ姉さんもジルさんたちも居るし、大丈夫じゃないか?」


 今、頼りになる人物は村に大勢いるんだ。

 小規模な戦闘なら任せて置けるくらいには、充分過ぎる戦力だぞ。

 だからもう少し二人の時間をだな……


『――残念ですがお急ぎを。反応は二つ。一人は……ジルリーネ・ランドグリーズと似た反応。おそらく【ステラダ】で屋台の店主をしていた人物かと思われます』


 【ステラダ】で屋台の店主??


「いやもうそれって……」


「ジルに似た……って事は?」


 ジルさんに似た反応。更に【ステラダ】で屋台の店主をしていた人物なんて、一人しか心当たりないが。


『もう一つは不明。ですが……ミーティアの反応と似ています』


「「!?」」


 ミーティアに似た反応!?


「えっと、確認だけどティアに兄弟はいない……よな?」


「え、ええ。血縁は父と……母だけ」


 そのどちらか。

 一つの反応がジェイルなら……まさかダンドルフ・クロスヴァーデンが、みずから?


「……」


「気になる、よな?」


「う、うん。大臣となったお父様がみずから村に来るとは思えないけど……でもジェイルは【クロスヴァーデン商会】を任されているはずだし……そうなると……えっと」


 混乱気味だ。

 残る選択肢であるお母さんは……【ステラダ】に居るはずだけど。

 身体が弱く、病弱でほぼ寝たきりだったはずだ。

 話だけはよく聞いたし、ミーティアも少し辛そうにしているのも見た。


「よし、商会の準備は一旦休憩だな、来てる一人がジェイルなのは確定だし……行ってみよう。大丈夫……もしダンドルフ会長が来ても、俺がティアを守るから」


 笑顔を見せると、ミーティアも笑顔で。


「……うん。私も戦う、戦闘とかそんなのじゃなくても」


 武力で事が起こるとは限らない。

 しかしウィズの報告では……戦闘が発生しているという事。


「ああ。一緒に行こう」


 俺は手を差し出す。

 【転移てんい】で一気に移動しよう。


「ええ」


 手を取るミーティア。

 少しだけ震えている、不安も出るだろう。


 二つの反応が同じ場所に居るというのなら……戦闘の反応はその後方、つまりジェイルは追われていると考えるべきだからな。

 ミーティアの父であるダンドルフ大臣か、はたまた母親なのか、そこまではわからない。


 ミーティアの前途多難なその進む先に差すのは、きっと明るい日差しだと信じよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る