10−22【コメット商会1】



◇コメット商会1◇


 再燃した夢への一歩。

 それは加速し燃えて、決意と活気を満ちさせてくれた。

 恋と夢、両方を手に入れる。簡単なことではない……だけど俺は、そんな夢を追う彼女が好きだったし、これからも支えていくつもりでいる。


「ティアっ!これは!?」


「……そっちにお願い!」


「了解!」


 あれから数日経ち、ここは塔の内部。

 一階部分に展開されるのは、俺とミーティアの色気のない会話だ。


「ミオっ!ここの部分に【無限むげん】をお願い、オープン型の受付みたいな、そんな感じで!」


「オッケー分かった、少し待ってて!【転移てんい】っ!」


 シュン――と消えて、直ぐに。


「素材取ってきた、流石に全部金属ってのは見栄えが悪いからな。良い木材を使おうか」


「ありがとう!」


 せっせと次の作業に取り掛かるミーティア。

 うん……見てくれてもいいんだけどね、でもまぁいいか。


「【無限むげん】っ!」


 【ギルド】の受付をイメージした、接客のしやすそうな台を作成し仕付ける。


「こんな感じかな」


 「すっごくいい感じ!」と聞こえてくる。

 ちゃんと見てくれてた。良かったね俺。


「間取りはこんな風でいいだろ……広さも充分、塔だけに円形状なのもいい味出してるよな……床は」


 塔内部の一階だけは、区切りがない大広間だ。

 【布都御魂フツノミタマ】を素材に使われて、大理石よりも硬く綺麗な土台。

 一点欠点を言えば、床が綺麗すぎてスカートの中が反射する。

 そしてそれはどうしようもならない……今はな、今だけだから、多分。


『――よこしまな考えは通報します』


 え。


「ミオ、そこは修正ね?」


「……はい、すみません」


 にっこり笑顔でそう言われた。

 そんな感じで、まぁ楽しいよ……ここ数日はさ。





 塔ができた日、帰れば当然追求される。

 特にクラウ姉さんに。


 その日は、父さんと共に村の移動の説得を村人たちにしていたクラウ姉さんとアイシアだったが、ふと外に出たら……遠目にあの塔が見えた。

 これが出来るのは俺しかいない、そう思ったらしい。


 帰宅して早々に、胸ぐら掴まれて押し倒されて、それはもう追求された。

 しっかりと説明したら、思いのほか早く理解してくれて、賛同もしてくれた。


 村人たちの説得も良好。

 あの日の燃える惨状が効いたのか、特にゴネることなく、村長である父さんの意見を聞いてくれたらしい。

 俺の予想だけど、もしかして姉さん後ろから圧をかけたのではと思っている。

 父さんの真摯しんしな思いが九割だとしても、一割は姉さんの見えない圧だ。


 そして重要な点を一つ。

 建てた塔を見ても驚かなかったのが、アイシアだった。

 特に未来を見ていた訳ではないと言うが、この世界にはあれだけの塔は存在しない。

 それなのに、「すごいね」で済まされたんだからな。


 言質を取った訳ではないが、アイシアはあの日……未来の光景を見せたあの日、もしくはそれ以前に、あの塔の存在を見ていた可能性だ。

 だから驚かなかった、そしてミーティアに対して、アイシアは「頑張ってね」といった。まだ商会の事は言っていなかったのに、だ。


 だけど、それで確信した。

 商会を作ることで村は大きくなる。

 あの大きな塔を村の起爆剤にして、更には公国の人員をマンパワーとして、塔の周辺も整備し始めた。

 村の人たちの説得も終わる……これで、村の移転を開始できる。


 そこからはもうスピード勝負だ。

 塔の出現は、帝国も王国も公国も把握するはず……そうなれば起こるのは、王国や公国からの、調査団の来訪だ。

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