10−21【公国組の真意6】



◇公国組の真意6◇


 困ったものだ。

 公国からの献上品は、まさかの転生の特典ギフト

 それを使って商業に使う塔を建てた……それが、この眼前にある巨大な鉄の塊だ。


 それをこんな風に使ってしまったら、今更公国組を否定できはしない。

 するつもり無いが、決定的に協力者だ。しかも大々的な、だってこの塔の素材そのものだぞ?


「しょ、商業施設なんて比じゃないぞ、これは」


 影が差す、全体に。

 もうこの影、【豊穣の村アイズレーン】まで届いてません?


『そこまでではありません』


「ウィズがやったの?」


「そうらしい。俺は約千メートルのサイズで計算したんだけど、多分それ以上はあるよな……」


 階層にして、百階は軽く超えていると思う。


『――約二千五百メートル、階層にして……二百六十六階です』


「そこまでの規模求めてねぇよ!山じゃねぇか!!」


「な、なにどうしたのよミオっ!説明して!」


 突然の叫びにセリスが言うが、ミーティアに説明してもらうとして。


「計算よりも倍以上だぞ、そこまで人員無いのにどうすんだよ!99パー空き物件だぞ!」


 俺は少し離れて、ウィズの無茶苦茶に苦言をていする。

 ここまでの規模を埋めるのに、どれだけの時間と労力使うと思ってんだ!


『――二年もあれば全て利用施設に変わるでしょう』


「そんな短期間求めてないが!?」


 しかもこの塔は、商業の為だけに建てたんだ。

 目立てばいい、呼び込みのための施設だったのに。


『これならば重要拠点にも変わるでしょう。万が一攻め込まれた時、ここに立てもることも出来ます』


「そ……」


 それはその通りだけども!ごもっともだよ!


『村が燃えた時の反省点です。活動拠点の少なさ、それと【女神アイズレーン】にしか頼れなかった村人たちに、行動理念を与えましょう。自衛させるのです、この塔を自分たちのものだと意識づけて』


「ウィズ、お前……」


 それは、アイズの負担を減らす手立てでもあると理解した。

 最終防衛ラインというべき存在として、この塔を使えばいいと。

 当然塔内に施設入れる、入れるが……上り下りはどうするんだ、二百階以上だぞ?


『塔の内部はいずれで構わないでしょう。当面は下部十階程度を使用して、まずは利用者を募ります……計算上、【ステラダ】から引き抜けば事足ります』


「引き抜くって……誰を――」


 そこまで言ってピンとくる。

 【ステラダ】には、徴兵ちょうへい時に痛い思い、怖い思いをして国民たちが大勢いるんだ。

 特に反旗をひるがえしていた、【ギルド】のメンバーや学生たち。

 【王都カルセダ】に持って行かれた、国一番の商会――【クロスヴァーデン商会】。


「あ!!」

「あぁ!」


 俺とミーティアが同時に驚く。

 どうやら意見が同じだったらしいな。


「作ってしまえばいいんだ。【クロスヴァーデン商会】を超える商会を、これを機に!」


「……わ、私!やるわっ、絶対にこの機会を逃さないっ!」


 ミーティアはもともと独立の方向だった。

 そのための準備をしていた矢先に、あの徴兵ちょうへい事件だったんだ。

 小さな店舗からコツコツやらせるつもりだったけど……ウィズがせっかくそこまで考えて建ててくれたこの塔。

 ならば利用するに決まってる。


 ダンドルフ・クロスヴァーデンは思っているだろう。

 娘には何も出来ないと、高をくくっているはずだ。


「ああ!見せてやろう、この短期間で……【クロスヴァーデン商会】を超えてしまえばいいんだ!」


 ここに再燃する、ミーティアの夢。

 世界一高い塔を起点に、その商会は誕生する――名を【コメット商会】と銘打って。

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