10−15【進む未来は同じはず6】



◇進む未来さきは同じはず6◇


 父さんは悲しそうであり、そしてまた怒っていた。

 表情は眉を寄せ、涙をこらえているようにも見えて……俺は涙が出せないにもかかわらず、つられそうだった。


「――幸せだっただと?別れみたいに言うなっ!!前世の記憶?……知るかそんなもの!生まれるべくして生まれた?そんなものは関係ない!!……お前たちは、前世とか女神様とか、そんなものに関係なく僕とレギンの子供に生まれたんだ!どこの誰じゃない!ミオとクラウだ!!僕が名付けた、可愛い可愛い二人の子だ!!」


「父さん……」


 テーブル上で握られるその拳は、農家のゴツゴツとした手だった。

 優しく、不器用で、少しだらしないそんな男。

 だけど家族を大事にして、任せられた村長という立場をしっかりとやって来たんだ。


「……そうよ、ミオもクラウも、私たちの大事な子供……そんな別れ言葉みたいに言われたら、お母さん悲しいわ」


 立ち上がり、静かに歩み寄って……スッとクラウ姉さんの目元を拭う母さん。


「ごめん、ママ」


 どこかで覚悟をしていた。

 家族との別れ……前世のことを話して受け入れてもらえなかった場合、きっと俺もクラウ姉さんもこの村を離れていただろう。

 例えそれが望みじゃなくても、その時点で……俺の異世界生活は終了だ。


「いいか!僕もレギンも、二人の親を辞めるつもりはないぞ!レインもそうだろう!?レインは、二人のお姉ちゃんだろ?」


「……うん。ごめんね二人共……きっと悩んでいたよね、怖かったよね。でも大丈夫、前世とかそんなの、覚えてないだけで誰もが持ってるはずだもの。たまたま女神様が、二人に覚えてていいよって言ったのよ」


 優しげな微笑ほほえみをくれるレイン姉さん。


「コハクだって、二人は大切なお兄ちゃんとお姉ちゃんだよな?」


「うん!!コハクも!!ミオ兄ちゃんもクー姉ちゃんも、コハクの姉兄きょうだいだもん!」


 母に続いて立ち上がり、俺とクラウ姉さんの間に入り込むコハク。

 そして父さんも立ち上がって……俺たちの後ろから。


「バカな子たちだ……そんなに悲しそうにして、捨てるわけ無いだろ?父さんも母さんも、二人がいないと生きてけないよ。勿論、レインもコハクも同じだ」


「ええそうね……大事な大事な我が子、四人揃ってスクルーズ家の子供たちだもの」


 両側から、心の奥底まで届く温かさ。

 俺は――前世から数えて初めて感じた、これが本当の家族。

 こんなにも優しいぬくもりと言葉を受けて。


「父さん……母さん。俺は――幸せものだ」


「うん……本当に……」


 なんでこんなにも温かい空間なのに、涙が出せなくなったんだろうな。

 ボロボロと泣いてくれる家族に、一つになった家族に感謝をしつつ、俺は顔を伏せて瞳を閉じる。

 心配はかけなくていい、だから心で泣いておけ、ミオ・スクルーズ。


「ありがとう、皆」


 例えば前世の記憶を保持していようが、別人じゃあない。

 この世界に生まれたミオとクラウ。

 スクルーズ家に生まれた姉弟が、本当に家族になった瞬間なんだと、俺は思った。


 だからここに改めて誓おう。

 俺は、この村を世界一にする。

 世界で一番大切な家族……スクルーズ家。

 俺は絶対にこの家族を守る……前世とかそんなの関係ない、俺は――ミオ・スクルーズとして進んでいく、この先の未来も同じ場所を目指して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る