10−14【進む未来は同じはず5】



◇進む未来さきは同じはず5◇


 クラウ姉さんの言葉には正解しか無い。

 転生者が集まって来ている以上、家族に隠し通すのは難しい。

 それこそ自滅しないように気をつけていた地雷ワードを、クラウ姉さんにバレてから多用していたし、もしかしたらレイン姉さんも、違和感を覚えていたのかも知れない。


「まずさ、【女神アイズレーン】の話からするよ……全てはあいつ、あの女神様から始まったんだ、俺とクラウ姉さんは」


「そうね。私もミオも……あの人に選ばれてこの世界に生まれたの。パパとママの間にね」


 クラウ姉さんがフォローしながら話してくれる。

 あくまでも、家族として接してきた……前世の記憶があれど、今この時代に生きているのは、スクルーズ家に生まれた俺たちなんだから。


「アイズレーン様が……僕たちの間に、クラウとミオを」


「生まれるべくして生まれたと、そういうことかしら」


 父さん母さんが言う。

 信じられないだろうさ、まるで生まれる事が決まっているような、そんな話。

 だけど騒動があって、女神という存在をおおやけにしたんだ……アイズレーンが本物の神様だってのは、今ではこの村の常識だ。


「エリアルレーネ様もいるし、今となってはイエシアス……様もウィンスタリア様もいる。神様が存在するのはもう、二人も姉さんも分かってるだろ?」


「……コ、コハクはー!?」


「コハクもよ」


 末妹のコハクは小さいからまだいいと思って省いてしまった。

 ごめんよコハク、次は忘れないから。


「エリアルレーネ様のお側にいる人たち……あの人たちも俺やクラウ姉さんと同じなんだ。生まれるべくして生まれた……前世の記憶を持った、特別な存在」


 言ってしまった。

 家族にだけは隠し通すと決めていたはずの、その秘密を。

 知られたら……お前は他人だ、とののしられそうで怖かった。


「前世……」


「それじゃあ……クラウもなの?」


「そう。私は……前世では潤間うるま星那せいなという、日本という場所に生きていたの。あ、名前は星那せいなね、潤間うるまが家名」


「うるませいな……それがクラウの名前。じゃあミオにも?」


 レイン姉さんが言う。

 俺もクラウ姉さんを習って言うべきなんだろうな。


「うん。その……恥ずかしいけどさ、俺は――武邑たけむらみおって言う名で生きてた」


「え、ミオ?」

「同じ名前?」


 両親の戸惑いが見て取れる。

 はい、同じ名前なんです。


「生まれ変わっても同じ名前だとは、思わなかったけどさ……前世ではともかく、今では大好きな名前だよ。ありがとう……俺をこの世界に産んでくれて」


「私も……感謝しています」


 二人揃って頭を下げる。

 まるで別れの挨拶みたいで……心が痛い。


「……それじゃあ、二人は別人なのか」


「「!」」


 ミオ・スクルーズではない。

 クラウ・スクルーズではない。

 そう言われてしまうことを恐れていた。


「それは……違うと俺は思ってる。確かに前世の記憶は持っているけど、このスクルーズ家に生まれた十五年、俺は確かにミオ・スクルーズなんだよ。クラウ姉さんだって同じさ、前世で死んで、女神によって生まれ変わって……幸せだった」


 俺は言う。

 紛れもない本心、限りのない感謝。

 家族になってくれて、本当に嬉しかったんだ……だから。


 これからも。


「バカにするんじゃないぞ……ミオ、クラウ」


「「……」」


 下げた頭を戻すと、そこには悲しそうにする父さんの顔があった。


「……あまり父さんと母さんを舐めるなっ、幸せだった・・・?なんだその言い方は!それではまるで……もう家族じゃないみたいじゃないか!!」


「父……さん」

「……パパ」


 俺は、ルドルフ・スクルーズという男をあなどっていたのかも知れない。

 生まれたときから知る、だらしなくて優柔不断で、少しダメンズだった父の……家族思いな男の事を。

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