10−10【進む未来は同じはず1】



◇進む未来さきは同じはず1◇


 先の行動指針が決定した夜、帝国組にミオ・スクルーズが用意した宿では。


「そんな事があったんですか、殿下」


「お傍にいられず申し訳ありません、殿下……殿下も病み上がりだと言うのに」


 ベッドに腰掛けながら謝罪するのは、ライネ・ゾルタールだ。

 そして事のあらましを聞くのは、ライネとユキナリの看病をしていた……唯一の五体満足、ゼクス・ファルゼラシィだ。


「いいのよ。エリアルレーネ様もいたしね……それに有意義な意見もあったし、何よりミオが同じ考えだったのが嬉しいわ」


「ミオくんが……」


 大陸の、世界の中心になる村。

 その村を起点にして、訪れる者、旅立つ者、様々な人たちが混じり合い発展する。

 いずれは魔導科学を提唱し、セリスはあの日見せられた光景……この世界の近代化をうながしたい。


 ミオが目指すのは、あくまでも自分とその周囲が幸せに暮らせ、安心と安全に守られる場所だ。

 彼の場合、視野で言えば狭いのだろうが……規模は大きい。


「ええ、きっと見ている未来ものは同じよ。彼は自分や周囲、私は世界全体というだけで」


「殿下のは規模がデカすぎますよ……この東大陸だけでも大きいのに、西大陸や南の【ラウ大陸】を含めたら、いつまでかかるか」


 ゼクスが言う。


「そんな事ないわよ、意外とすぐに訪れるかも知れないでしょう?未来は分からない……だから面白いし、エリアルレーネ様だって今回ばかりは安堵したでしょう」


「……ボケナスのことですね」


 不安げに、隣のベッドに眠るユキナリ・フドウを見るライネ。

 未だに眠り続ける……ミオによって能力を奪われた、転生者であり転生者ではなくなった少年。


 運命の女神は決断をしない。

 運命という流れに任せ、傍観する神だ。

 だからこそ、望まない未来であろうと受け入れる。

 しかし……今回それが大きく変わったのだ。


「そういう事。エリアルレーネ様が本来望んだ未来を、ミオが作ってくれた。ユキナリも私も、ライネも……あの時死んでいたかも知れない。それを救われたのだから……」


 死ぬはずの運命を変えられた。

 大きな後遺症を負うような怪我を回避できた。

 運命の女神がその心に飲み込んだ、希望という未来。


「でも、先輩は起きません……」


「平気よ、来るべき時が来れば……必ずユキナリは起きる。その時に文句を言ってやりなさいっ」


「そうだぜライネ、その腹の魔痕まこん……責任取らせねぇと」


 魔痕まこんは、魔族が使う魔法の一種であり、自分の所有物を証明する証だと一説にはある。

 かつては自分の恋人や妻に施したとされる、紋章だ。

 魔物の能力を使用していたユキナリだからこそ出来た芸当だろう。


「い、要りませんよ、こんなの恥ずかしいだけです」


「ふふふ……何にせよユキナリが起きるまで、いえ起きてもね。私たちは進まなければならないわ。共に、限りない未来へ進んでくれる協力者ミオたちもいる」


「そっすね、スクルーズの姉弟は言わずもがな、あの青髪のお嬢さんや……殿下と同じ宝珠を持ったあの子――えっと……」


「アイシアさんね。彼女は次代の女神候補、私と同じEYE'Sアイズだけど……エリアルレーネ様がアイズレーン様の延命をしている以上、それも変わるかも知れないわね」


 アイシア・ロクッサ。

 ミオの幼馴染であり、アイズレーンの後継者。

 紫の【オリジン・オーブ】を所持する村娘。


 彼女が見せた未来の光景こそが……この異世界の近代化だ。

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