10−9【大義と言う名の女神3】



◇大義と言う名の女神3◇


 気を取り直して、目を回すイエシアスを放置しアイズレーンは椅子に座り直す。

 ウィンスタリアは相変わらずイエシアスで遊んでいるが。


「それにしてもミオのやつ、国境に村を作るとか……考えたわよね」


「国ですよ……まぁただ、よく思いついたものだとは思います。セリスもですが、難しいことを安々とやって来た実績が、そう言わせるのかも知れません」


 国を作るのは、当然簡単なことではない。

 ましてや三国の国境というのは。


「宣言した途端に、王国と公国が文句を言いそうよねー」


「それはそうですね。豊穣の国と名を打てば、帝国領土だと取られてもおかしくはありません――帝国領土ですし、アイズの名の村は」


「おー!ならば……女神の名前を大きくしていけばいいのだー!」


「バカね、余計な火種になるわよ。適度でいいわ」


「「……」」


 ウィンスタリアとイエシアスがそう言う。

 アイズレーンとエリアルレーネは、それを聞いて。


「確かに……ウィンの言いようでは信憑性は皆無です。なぜなら、女神は近い三国でしか存在していないですからね」


「それだと他の国は信じないってことね。神に近しい存在のものを信仰する国も多いけど、帝国・王国・公国の三国でしか……あたしたちは認知されていないから」


 それが現実だ。

 小国の中には、女神を信じて国を移る者も居る。

 しかしその程度。女神の名は確かに大義名分となるが、リスクも大きい。


「だからイシスの言うように、適度がいいのかも知れません」


「まぁね……つーか、いきなり何まともなこと言い出してんのよ。もしかして同情を得ようとしてますぅ〜?」


 わざとらしく憎たらしい顔で、アイズレーンがイエシアスに。


「フンっ……別に」


 イエシアスは流されて発言したのだろう。

 女神が集まることは、神界ですらまれだった。

 その空気感に、その柔らかい空間に。


「まぁいいけどね、あんたはもう何も出来ないだろうし」


「……フン」


 アイズレーンにあわれな目で見られ、イエシアスはそっぽを向く。

 (なんでこんな事を言って……バカらしい)と内心でつぶやきながらも、流されて発言してしまった事を後悔した。


「……それでは、わたくしたちの指針は決まりましたね」


「そうね」


「ウチも賛成だー」


 アイズレーン、エリアルレーネ、ウィンスタリアの三女神は同意に至った。

 ミオの言う“女神を大義とした国の建国”……そして来るべき敵を迎え撃つための準備。

 自分たちの名を利用されるにしても、それが最善で最良なのだと、それが自分の転生者こどもたちの決断なのならば……女神は大義と成る。

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