10−8【大義と言う名の女神2】



◇大義と言う名の女神2◇


 地下教会に戻った女神……四柱。

 それぞれ別々の思惑があるだろう……ただし、宙釣り女神を除いてだ。


「あんたらねぇ……あれだけ私を無視して!挙げ句は芋虫のように引きずり回すなんて!!」


「何を言ってるんですイシス、あれは人たち……ミオたちの話し合いですよ。介入はしません、そうでしょうアイズ」


 ミオによって改修された自室は、さながら高級ホテルの一室だ。

 その机に肘を付き、唇を尖らせて答えるアイズレーン。


「そうね……まさかあそこまでの展開を作るとは思わなかったけど。にしてもエリア、あんたの子……セリスフィアって、何者なの?」


 ミオと同じ考えをしているのはまだいい。

 それくらいなら思いつくものだが、セリスフィアの場合行動力が違う。

 ましてや一個人、国の皇女としての立場もある彼女がこうして勝手をするのは、言ってしまえば国への反逆に近い。

 国に準拠しているのなら話は通るだろうが、今回ミオが言うのは……新しい国を起こすと、そう言っているのだ。


「彼女は生前、貧しい家庭で育った子供たちを保護していました。育児放棄や虐待、少年犯罪をしてしまった子供たちを育てた女性ですよ」


「へぇ」


「なにそれ、つまらない人せ――」


「――つまり!救いを差し伸べていたのだなぁー!!わっはっは!ウチと同じではないかー!気に入ったぞー!」


 バッシバシと、簀巻すまき女神をサンドバッグにする幼女神。


「こ、このドチビがぁぁ!!」


 遊ぶ二柱を無視して、アイズレーンは。


「物好きねぇ」


「そうかも知れませんね、あの子は優しいですから……私とは違って」


 しかし、今世での立場も大きく理解している。

 大陸一の最大国家、【サディオーラス帝国】の皇女。


「ユキナリ・フドウの事ね。確かにあの時……セリスフィアはエリアに助けを求めてた、でもエリアは――」


「ええ、私は救いを行えません」


 エリアルレーネは首をゆっくりと横に振る。

 運命の女神として、定められたものを捻じ曲げるわけにはいかないと。

 そんなエリアルレーネの言葉に……プラプラと揺られるイエシアスが噛みつく。


「――でも、エリアの運命はあのミオによって変えられたじゃない!本来ならあそこで私が全能力を回収して終わり!それでこの世界もお役御免だったでしょ!」


「はいはい、負け犬女神おつー……どうせミオに勝てなくて根に持ってんでしょ、女神になる前は魔人だとか、大見え切ったんじゃないのぉ〜?」


 アイズレーンは相手にせず受け流す。

 煽ることも忘れずに。


 その言葉にイエシアスは。


「こ、このゴミ部屋女神ぃぃぃ!」


 ブチッ――


「……なぁんですってぇぇぇぇ!!」


 何故その言葉は耐えられないのか、事実なのに。

 アイズレーンは立ち上がり、イエシアスが巻かれている布をむんずと掴んで……思い切り回した。


「――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 グルグルグルグルグルグルグルグル。


「ふぅ。でもそんなエリアも、ミオに協力してくれるって訳でしょ?」


「……そうですね」


 何事もなかったかのように言うアイズレーンに、優しく笑うエリアルレーネ。


「ユキが助かったのは、まさしく運命から離れた事象です……あの時あの場所で、ユキが命を失い、セリスとライネが大怪我をすると言うのは――【神告しんこく】によって告げられた運命だったのですから」


 それはユキナリ・フドウの母、ミリティ・ファルファーレの能力――【神告しんこく】によるお告げ。

 それを、エリアルレーネだけが知っていたのだ。


「……よかったじゃない、運命が変わってくれて」


「そう……ですね、今回ばかりは」


 明確に誰かを名指ししたお告げではなかった。

 しかしエリアルレーネには悟りがあった、ここがその時だと。

 だが……その運命は変えられた、ミオ・スクルーズによって。


「ミオは今後も色々とやってくれるわよ」


「フンっ――やらかすの間違いでしょぁぁぁあああああああああ!」


「わははははははっ!」


 大人しくなりそうだったイエシアスを再度回転させ、アイズレーンはフフンと笑う。それを見てウィンスタリアも大爆笑をしていた。

 そしてエリアルレーネも……こんな日常もいいものだと、微笑んだのだった。

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