10−7【大義と言う名の女神1】



◇大義と言う名の女神1◇


 【サディオーラス帝国】、【リードンセルク王国】、【テスラアルモニア公国】。

 そして返還された領土であるエルフの森。

 その三国の国境を起点に新たな村……国を起こす。


 大義は女神だ……その名を触れ回り、大陸中に響き渡る国を目指す。

 そうなれば、当たり前だが反攻勢力も出るだろう……近隣で言えば公国と王国だ。

 特にルーファウス公子とレイナ公女が、【女神ウィンスタリア】を連れ回っていると知った時、父親である大貴族……コルセスカ公爵がどう出るか。

 ルーファウスの話を聞く限り……多分ろくでもない男なのだろうが。


「ん、ん〜〜〜〜〜〜はぁ〜……考えること、多いなぁ〜〜」


 誰もいなくなった場所で、俺は身体のコリをほぐすようにコキコキと音を鳴らす。

 先程までは女神やら皇女に王女に公女がいすぎて、身分の小ささに拍車がかかっていたからな。


「――ふふっ、お疲れ様ミオ」


「お〜ティア……サンキュー」


 コトリと置かれたのは木のカップ。

 リアと一緒に行った村で買ってきた、安物の紅茶を淹れてくれたようだ。


「きゅ、急にだらしなくなったね……」


 ダレる俺を見て、笑いながら言う。

 あれ、ちょっと呆れてる?


「ははっ、疲れたよ流石に。色々と有りすぎて気も抜けるさ……おお、美味い……これはあれだな、ティアが淹れてくれたから、安いお茶も高級品みたいだっ」


「……もう」


 少し照れたように小声で言う。

 さっきの会議でも控えめで、俺やジルさんに気を配ってたけど。


「……なぁティア、もしかして、少し気にしてないか?」


「え?なにを?」


 各国の主要人物……肩書だけならミーティアも似たようなものだ。

 王国に攻め込まれる理由、それは女王シャーロットと俺だけじゃない。

 王国大臣とその娘であるミーティアも、充分理由になるからだ。


「その……会長さん、お父さんの事をさ」


「……」


 ピタリと、片付けをする手が止まった。

 やっぱり、考えない訳はないよな。ミーティアは頭のいい子だし、その覚悟は本物とはいえ、血と生まれはどうにもならない事も理解しているはず。

 ミーティアがどう思おうが、ダンドルフ・クロスヴァーデンの娘であることだけは拒否できないんだからな。

 俺が村生まれの村民なのと、同じように。


「多分……お父様なら、私を有益な出世道具として扱うでしょうね」


「道具って、そこまで……」


「ルーファウスさんやレイナ先輩がこの村にいれば、公国が攻め込む要因になる……それと同じく、私自身も王国が攻め込む要因になるのよね……うん、分かってる」


 それでも、俺は受け入れると決めたんだ。


「――平気よ、ミオがいてくれるし、私――負けないから」


「ティア……ああ、大丈夫。絶対に、君を利用なんてさせないよ。この村もティアも、俺が守る」


 立ち上がり、ミーティアの背中から肩に腕を回す。

 ミーティアはその腕に頬を預け……小さく「うん」とうなずいた。


「私も……ミオと並んで歩けるように、精一杯……強くなる」


「ああ、一緒に行こう」


 俺はもう、王国と戦う覚悟は出来ている。

 何故ならそれは――前世からの因縁だと、確信したからだ。

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