10−4【公国の内乱4】



◇公国の内乱4◇


 これはジルさん、始めから俺にゆだねるつもりだったな……ルーファウスや【女神ウィンスタリア】を問い詰めた(そこまでしてない)のは、この話題には帝国ではなくエルフ族に重点を置いているという証明。

 その証拠に、それを理解していたエリアルレーネ様もセリスも、口を出してこなかった。


 俺は念の為セリスを見る。

 すると白金髪プラチナブロンドの皇女様は、視線だけを確認して頷いた。

 やはり……この人は思考が似ている。


 利益になるなら利用すべし。

 それが好意的なら尚更だ。

 恩は恩で返せばいい……ここで受けた“領土の返還”という、一種族の事柄も、プラスに転じることが出来たなら、きっと夢への大きな一歩になるに違いない。


「う〜ん――つまりだ」


 どれくらいの長考だっただろうか。

 ジルさんにゆだねられてしまった以上、半端な答えは出せない。

 しかし脳内シュミレートは完璧、ルーファウス(公国)の考えが俺たちと一致しているのなら、共に進むには充分魅力的。

 ましてや女神付きというとんでもないお土産があるんだ……大義名分は女神一人でどうにでもなる。


「ルーファウスやレイナ先輩は、祖国を敵に回してでも俺たち……帝国ってことになるけど、それでも俺たちと友好関係を築きたい……そんなところかな」


 そもそもはエルフの領土問題。

 されどジルさんというキーがこちらの味方な以上、分はこちらにある。


「先程はウィンスタリア様が勝手を言ってすみません……始めから、【テスラアルモニア公国】の一部……つまりエルフ族の領土であった、森を返還する旨を、ジルさんにお話するつもりでした」


 だろうな。【女神ウィンスタリア】の先走りと言うか勘違いというか、そんな感じだろう。


「……では」


 ジルさんが少しだけ嬉しそうに声のトーンを上げた。

 だけど、その後に出たトンデモ発言……俺もクラウ姉さんも、どう取ればいいのか分からなくなりそうなその言葉を、聞くことになる。


「その返還を快く受けよようと思う――ただし、わたしたちエルフ族は……その返還された領土、すなわち森を――ミオ・スクルーズ殿に移譲しようと思う」


「……へ」


「「は?」」

「へぇ、そう来ましたか」


 俺、クラウ姉さんミーティア、セリスの順にリアクション。

 折角百年ぶりに取り戻せる領土を……俺に??


「ジ、ジジジィ……ジィィルさぁぁん!?」


「わたしは女だ、ジジイではないぞ?ババアも許さないがな」


 ニッコリ――じゃねぇんだよ!


「領土の移譲ってなんですか!聞いてませんけど!話し合いと違いません!?」


 そう、ジルさんがここまで大人しかったのは、始めからルーファウスが好意的だということを計算に入れて、領土問題を念頭に出してくると踏んだからだ。

 それが……えぇ?なんでこうなるんだ……


「ミオには言っていないからな。これは我々……エルフ族の総意だ」


 総意って……まさかエルフ族の女王陛下も?

 この事を始めから予期して、まさか――来訪もそのためか!?


「……やられた」


 村が危ないと、エルフの里【フェンディルフォート】を出た俺たちだったが、その際にニイフ陛下は「ではまた」と言っていたんだ。

 また来てね……だと思うだろ、違うか?


 頭を抱えたい思い、いや実際抱えてもおかしくない。

 そんな思いをさせながらも決定的になるのは……エルフ族は完全に俺たちの仲間だという事、だけだった。

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