10−1【公国の内乱1】



◇公国の内乱1◇


 【テスラアルモニア公国】。

 約百年前、【パルマフィオキアナ森林国】の王子ジェイルよりもたらされた情報をもとに、地下の大通路を渡って侵攻をし国を攻め落とした。

 当時、貴族同士の争いが絶えない中、コルセスカ公爵家の当主であった男は、ジェイルの森を広げたい、自然を愛したいと言う思いを利用し、公国に伝わる秘宝――【エヴァーグリーン】を授けると騙した。


 確かに、【エヴァーグリーン】があれば森は枯れることなく、緑豊かな一年を迎えることが出来ただろう。

 しかし、当主の男は約束を守るどころか、共和の為、秘密裏に動くための地下通路を利用し、大群で攻め込んだ。


 エルフ族に、守る術はなかった。

 魔法国家として名高い公国には、有数の魔法使いがいた。

 それこそ天上人や魔人のような、中位種の種族が多く存在し、一時間も待たずに森は火の海となった。


 そして【パルマフィオキアナ森林国】は崩壊し、その領土は【テスラアルモニア公国】へと吸収された……それが、徴兵ちょうへいの時にミオたちが隠れていた、あの場所だ。


「……それで、その功績者の貴族ってのが、ルーファウスの曽祖父ってことなんだな」


「はい。コルセスカ公爵……今は亡き曽祖父です。コルセスカ家はその後数十年、国の実権を握りました。祖父、そして父も同じ考えで……ですが僕はっ!!」


 言葉を紡ぐ度、その力が強くなる。

 苛立ちと不甲斐なさ、そして贖罪の意を、子孫であるルーファウスが一番思っているんだ。


「……当時の事は、当事者のわたしもよく覚えているさ。燃える森、家族の命を奪われ逃げ惑う同胞、男は首を落とされ、女はその首の前で犯される……酷いものだった」


「ジル……」


 心配そうに、ミーティアがジルさんの手に触れる。

 ジルさんは「分かっていますよ」と優しく言った。


「ジルさんの言うことは、歴史の事実なんだろう。それは当然分かるし、俺たちはジルさんの味方だ――でも、ルーファウスの言うことも聞きたいと思うよ。そこまで考えて、悩んで、そうして先祖の行いに苦悩を重ねて……それでここに居るんだろうし、ね、ジルさん」


「……ああ、わたしも話は聞くさ。それに考えも……いや、それは今はいいな」


「ジルさん……ミオくん、ありがとうございますっ」


 立ち上がって頭を下げるルーファウス。

 こいつは、本気で先祖の行いを恥じていたんだな……エルフ族の事を気にしていたのも、旅に出ていたのももしかして。


「レイナ先輩も気ままに他国で勉強してたりするし……もしかして、コルセスカ家って一枚岩じゃない感じなのか?」


「「あ〜」」


 二人して「あ〜」って……もう確実だろ。

 公国最大貴族、コルセスカ公爵家……これは国を脅かしている、悪い例だ。

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