プロローグ10−3【救世神のきまぐれ3】
◇救世神のきまぐれ3◇
「レ……」
「レイ……」
「――レイナ先輩じゃねぇかっ!!」
クラウ姉さん、ミーティア、俺の順に。
フードの下に隠れていた赤髪の先輩の姿に驚く。
【冒険者学校・クルセイダー】の二年生……王国の
俺とミーティア(トレイダ)が一番お世話になった人だ。
「いや〜あはは、お久しぶり」
苦笑いと照れ笑いの中間で、頭をかきながらそう言う赤髪の先輩。
「素直に
「う、うん……私も、てっきり無事な学生は【ステラダ】にいると思っていたから」
クラウ姉さんとミーティアの言葉に俺は。
「だな。ロッド・クレザース先輩が屋敷を開放して避難させているとか聞いたし、そっち方面だと思ってましたよ」
キルネイリア・ヴィタールことイリアの雇い主、ロッド先輩。
彼は貴族であり、大きな屋敷を一般の人たちのために避難所代わりにしていると聞いた。後は魔物図書のグレン・バルファートのオッサンとかもな。
「あはは、実はドサクサで国に帰ってたんだよね〜……逃げ出すことが出来たのは偶然だけど。でもって帰国したら無理矢理馬車に乗せられて、今ここです」
レイナ先輩はウィンスタリア様をジト目で見る。
その女神様は口笛吹いてた……誤魔化したな。
「じゃあえっと、レイナ先輩は……公国の貴族?それも、公女様ってことですよね?」
「……まぁ、そうなるね。一応」
マジか。
「なんだかすごい状況になって来たわね。エルフ族の王女に、帝国の皇女、公国の公子に公女でしょ……?」
呆れ気味にクラウ姉さんが言うが、その通りだ。
「確かに……ってそういえば、肩書だけならミーティアも」
「あ……うん」
王国大臣の娘――だもんな。
ミーティアはそれを否定するだろうし、俺もそういう扱いはするつもりはないけど。
「……ま、まぁ私は隅っこで大人しくしているからさ〜、お話どうぞ〜」
サササッと下がっていくレイナ先輩。
いいのかお姉さん……ルーファウスに任せるってことだろ?
「終わった?」
アイズがつまらなそうにそう言う。
うん……終わったかな。
「ああ、悪い。つい驚いてしまって」
「そ。じゃあ続けましょうか……皆、席に着きなさい」
あっけらかんと言うなぁ……女神からしたら興味ないんだろうけど、俺たちは久しぶりの再会なんだから、もう少しゆっくりしてもいいだろうに。
「はーい、それじゃあ続けますよー」
エリアルレーネ様が、ポンポンと手を叩いて進行を進めようとしてくれる。
幼稚園の先生感が凄いな。
それを見ながら俺は言う。気を取り直してな。
「それで、“領土の返還”だな……正確にはエルフの国である、【パルマフィオキアナ森林国】の領土だったわけだけど。返還の意志があるのは分かったよ、ウィンスタリア様にも、ルーファウスたち公国の人たちにもさ。でも……」
俺に続いてクラウ姉さんが。
「そうね。公子、そして公女とはいえ最高責任者じゃない……女神がいたとしても、国同士のやり取りをするにはちょっと勝手が過ぎているんじゃないの?」
その通りだな。公国の君主は貴族だ、しかも多分ルーファウスの家系。
つまりルーファウスとレイナ先輩の父親かな、その人が国の実権を握っているはずだ。
女神が指導者の立場で、なおかつルーファウスが実権を握っているなら話は別だが。
俺とクラウ姉さんは顔を見合わせ。
「――もしかして、独断か?」
「……」
無言は肯定かな。
そんな一瞬の静寂……それをぶち壊すのは、いつだって無法者――ではなく、きまぐれな女神たちだ。
静寂に、明快な声が発せられる。
「おーいおい、ルーは何も知らないんだぞ?転生者のことだって、ウチは内緒にしてたんだからなっ!公国の君主は確かにこ奴らの親だが、ルーもレイも明朗快活。騙そうなどとは思ってもいないぞ!」
「……そうなのか?」
「あ、はい。ミオくんとエルフの里への道中にお話したときですね、僕は確かに……女神様の事は存じていました、それはすみません。けれど、転生者についてはミオくんから聞いたのが初めてです。ウィンスタリア様は、何も仰らないので」
なんか意外だ。
この幼女神、ペラペラと喋りそうなのに。
「そして、ミーティアさんとジルさんを国境まで送り届け、帰国後にウィンスタリア様に色々と問いただして……今に至ります。まさかウィンスタリア様がついて来るとは思いませんでしたけど」
「わははっ!ウチはやりたいことをやるのだー!!」
自由過ぎるこの幼女神。
こりゃあルーファウスも気疲れするな。
でも、会話をしているうちに少しずつ分かってきた。
ルーファウスが出会った当初からエルフ族に関して敏感だったのもそうだし、こうして奪った土地を還すだなんて言い出したのも、多分俺やジルさんと出会ったからなんだな。
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