第10章【少年期を終える時】前編

プロローグ10−1【救世神のきまぐれ1】



◇救世神のきまぐれ1◇


 異世界【レドゥーム・アギラーセ】。

 東大陸最大国家【サディオーラス帝国】の最東端、【豊穣の村アイズレーン】に、初めて女神が勢ぞろいした……しかし、その数は四。

 この世界には、それだけの数しか神は存在していなかった。


 神が極力関与しない異世界。

 そんな世界の小さな村に、最小にして最大の数の女神が集結したのは、単なる偶然か、それとも導かれた必然なのか……その答えはもうすぐ判明する。


 一人の少年……転生者ミオ・スクルーズによって。





「ワハハハハっ!!いいざまではないかイシスぅ〜!!」


 バシバシと、簀巻すまきにされた女神を叩く女神。

 瞳を閉じつつも、眉間に深〜い皺を刻んで怒りを耐えるのは――【蠱惑の女神イエシアス】だ。

 彼女はミオ・スクルーズに敗れ、無様にも拘束されて吊し上げにされていた。


「……この……ドチビがぁ……」


 腹の奥底から響くような、恨めしい声を出すイエシアス。

 それを見ながら大笑いする小さな女神……ウィンスタリア。


「――そろそろ止めておきなさいね、ウィン」


「いい加減止めないと、そのうちイエシアスの血管切れて死ぬわよ?女神だけど」


 同じ女神のエリアルレーネとアイズレーンに言われ。


「むっ!それは一大事だな、ウチは寛容だ、許そう」


「……このっ」


 何をどうしてお前に許されなければならないのか。そんな視線を送るイエシアス。

 しかし気にせず、小さな女神は勢いよくドンっ!と椅子に座り、ニパァと笑う。


「……そ、それでは話を再開しましょうか」


 そう言うのは、【女神ウィンスタリア】の従者として共に来村した少年。

 ルーファウス・オル・コルセスカという名の貴族の少年だ。


「そうしてくれると助かるな、ルーファウス」


 少しの圧を含む、一人の女性の一言。

 長く綺麗な銀髪に、横に広がる長い耳が特徴の……エルフ族の女性。

 ジルリーネ・ランドグリーズ……正式にはジルリーネ・エレリア・リル・エルフィンという、エルフ族の王女だ。


「は、はい」


 彼女が圧を放つのは、小さな女神が起因している。

 そしてルーファウスという少年も、因果が深く関係していた。


「ジル、少しそのオーラをしまいましょう?」


「そうよジル。それだと彼も話しにくいでしょうし、ね?」


 ジルリーネにそう宥めるように言うのは、ミーティア・ネビュラグレイシャーとクラウ・スクルーズだ。


「……そうですね。理解も納得もしているとはいえ、大人気なかったですか」


 腕を組んで瞳を閉じてそう言うも、どこか言葉とかけ離れた態度にも見える。

 その様子を見ながら、ミーティアとクラウは顔を見合わせて苦笑いだ。


「まぁいいんじゃないか?ジルさんだって、さっきみたいなことを言われたら思うと事もあるだろうし」


 この部屋の中心に座る、渦中の最重要人物。

 転生者では傷をつけることが出来ない女神にダメージを与え、かつ捕らえる事ができる唯一の転生者……ミオ・スクルーズだ。


「呑気に言ってんじゃないわよミオ、よく考えたら……そこのルーファウスくんは公国の中枢貴族なのでしょ?それに――セリス、じゃなくて……セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス殿下もいるんだし……くっ、長いわね」


 姉のクラウがそう言うも、ミオは。


「まぁまぁ、さっきセリスも……じゃなくて殿下も自己紹介したし、いいじゃないか少しくらいまったりしても」


 呑気である。

 しかしそれにも理由がある。

 今しがた姉弟が話題にした人物が……笑み浮かべながら言う。


「ふふっ――【女神ウィンスタリア】様が仰った、“領土の返還”のお話ね。確かに……かつて昔の戦争によって奪われたのは、我が帝国ではなく……ね」


 姉弟が呼び名を間違う人物、帝国皇女セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスことセリスが言うと、待ってましたと言わんばかりにルーファウスが。


「そ、その通りです!僕……いえ私たちはそれを、それをお話したくて!」


「――そうだった!!ルー、何を忘れているのだー!」


「……ウィンスタリアさまが遊びだすからぁ……」


 肩を落とし、女神のきまぐれに振り回される従者の少年を見て、ミオは言う。


「はははっ、やっぱりどこも同じだなっ!」


「まったくだわ」

「そうね」

「……はい」


 クラウ、セリス、ルーファウス。

 ミオの言葉に激しく同意するのだった。

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