リバースストーリー1−5【新緑の再誕のために】



◇新緑の再誕のために◇


 ミオたちが故郷を救う為に旅立ったエルフの里【フェンディルフォート】では、女王ニイフ・イルフィリア・セル・エルフィンとエリリュア・シュベルタール、そしてニュウ・カラソラドールがある準備をしていた。


「エリリュアちゃん、それもよろしくね?」


「はい、伯母う――陛下」


 「あ?」と睨まれて、エリリュアは直ちに訂正する。

 叔母と姪の関係だが、そうした発言は許さないのだ。


「ニュウちゃぁ〜ん?」


「は、はい!ニイフ陛下っ!」


 ピーンと背筋を正すと、その大きな胸がたゆんと揺れる。


「そちらの準備はどうですか?そろそろ旅の準備も佳境……あちらも大方片付いている頃合いでしょうし、ジルリーネちゃんからの連絡を――」


 リーン……と、タイミングを伺ったかのように。

 鈴の音にも似た音が、部屋に響いた。


「言ったそばから来ましたね……陛下。私が対応します」


「ええ、任せるわね。ニュウちゃんは準備を」


「かしこまりました〜!」


 そう言って、ニュウは胸を弾ませながら部屋を出ていく。

 エリリュアは水晶のような魔法道具の前に正座し。そして。


『あー、あー……皆聞こえるか――わたしだ』


従姉上あねうえ!よくぞご無事でっ、心配しておりましたっ!」


 通信魔法の道具【ルーマ】から聞こえる従姉の声に、エリリュアは安堵をした。


『エリリュアか、そこに母上……陛下はいるか?』


「はい!聞いておりますよ」


『そうか。ならば報告を……まず、村は間に合わなかった。私たちと別れミオが単独で先行したが、それでも建物や畑、森は焼かれてしまったよ』


「――ひっ!」


 ジルリーネの報告に、エリリュアは仰天する。

 その理由は……自分の正面で鬼の形相を展開させた女王陛下に、恐怖を感じたからだ。


『ど、どうしたエリリュア……そんなしゃくりあげて』


「す、すみません、なんでも。それで……ミオやミーティアさんはご無事なのでしょうか、ルーファウスは?」


『ああ無事だ。それに村の人にも被害は殆ど無い。それが幸いだな、ルーファウスとも合流したよ』


 ただし村は焼かれ、森は燃え、畑は全滅だ。


「そうでしたか、それはよかった」

(合流?……一緒ではなかったのかな?)


「――ジルリーネちゃん。それで、あの件・・・はどうなったのかしら?」


 ずいっ……と出てくるニイフ陛下に、エリリュアは「ちょ、ちょっと陛下……」と言いつつも押し出された。

 場を変わり、ジルリーネの母親でもある女王陛下は続ける。


「こちらの準備は整いつつありますよ?連絡待ちだったんですからね」


『そ、それはすみません――ではなく!こちらも大変のですよ、女神様が……御揃いになられたんです』


「――ほほう。これまた貴重な場に出くわしましたね……ジルリーネちゃん」


 それほど驚かないニイフ陛下だが、興味ありげに目は細くなっていた。

 かれこれ千年以上生きているニイフ陛下だからこそ、女神が今の姿と違うということを、認識していたからだ。

 その長い歴史の中でも、女神が集結しているなど聞いたことがなかった。


『【豊穣の女神アイズレーン】様の村に、【運命の女神エリアルレーネ】様、【蠱惑の女神イエシアス】様……そしてエルフ族われわれには因果なものです、【救世の女神ウィンスタリア】まで、お揃いなのですから』


「……では」


『はい。陛下が村に訪れるまで……必ずや引き止めてみせましょう』


 かつてエルフのくにを滅ぼした国――【テスラアルモニア公国】。

 彼の国で信仰される【女神ウィンスタリア】、百年前も、彼女が力を貸したことは分かっている。

 だからこそ、エルフ族として……ニイフ陛下も村へおもむかねばならない。


『お待ちしております陛下。ミオもすでに了承済みですし――明るいですよ、我々の未来は』


「そうね……」


従姉上あねうえ……」


 【ルーマ】から聞こえてくる優しげな声に、エリリュアは感動した。

 かつては目の敵にしていた【テスラアルモニア公国】……その女神が側にいるというのに、ジルリーネは冷静で思慮の心を持っていた。

 それが嬉しく、昔のジルリーネを知っているからこそ、感動できた。


「感謝ですねジルリーネちゃん。出会いに……貴女あなたが仕えるお嬢さんに」


『――はい、母上』


 ニイフ陛下は理解していた。

 それが出会いによるものだと、ミーティアとの出会いで彼女が変わったのは事実、そしてその恋人たる少年が……近い未来、エルフ族の新緑を復活させるのだと、エルフの里【フェンディルフォート】では言われている。

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