リバースストーリー1−4【聖女は闇に沈む】
◇聖女は闇に沈む◇
ここは【サディオーラス帝国】南部。
【豊穣の村アイズレーン】ほど田舎ではないが、帝国下部の小国【ラウダバ】にほど近い……【カキュラ村】。
「感謝する、またどうかよろしく頼む」
紙袋に入れられた食品を持ち、麻の服を身に着けて買い物をする青年がいた。
村人に感謝し、銅貨を払う……【サディオーラス帝国】の通貨、【ルービス】だ。
「あいよ、ご贔屓にね!」
ペコリと頭を下げ、青年は拠点である――小屋へ向かった。
店から歩いて数分。
木造建ての小さな小屋、そこが青年の拠点だ。
「……戻った」
カチャリとドアを開けると、少女が迎えてくれる。
「お帰りなさい、団長」
「……僕はもう団長ではないよ、カルカ」
買ってきた食品をテーブルに置き、青年……アレックス・ライグザールはカルカとともに奥へ進む。
「……彼女はまだ?」
「……は、はい。お食事も睡眠も、一切しておらないようで」
奥の部屋は窓も布で塞がれ、真っ暗な空間だった。
置物も何もない。しかし……部屋の隅に、一塊の布で覆われた何かがあった。
何枚もの布を重ねて、自分の身姿を極限まで隠した……女性だった。
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……」
ボソボソと呟くその台詞は、もう連日に及んでいた。
「「……」」
聖女レフィル・ブリストラーダ。
あの日、ミオ・スクルーズに手痛い一撃を顔面に受け、頭部の半分を消失させた、絶世の美女であったはずの女性だ。
「レフィル様」
「――!!ひっ……ひぃぃぃぃ!」
アレックスの声に、姿に、聖女は恐怖し身体を縮こませる。
唯一視認出来る右目で確認し、涙を流し。
彼女の頭部の左半分は……黒い影で覆われていた。
何の作用なのか、どのような理屈なのか原理なのかも分からない、そんな黒い影。
抉り取られたように削られた左の目から上、完全に無くなっている。
つまりは脳も、半分が欠けている状態だ。
「く、来るな!!来ないでっ!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ガタガタと震えるのは、アレックスがミオに見えているからだ。
炎上する村から逃亡し、少ない生き残り(カルカを含む騎士数人)でこの村に身を寄せた。
幸いにも村人たちから卑下されることなく受け入れられ、こうして早数日。
もうすぐ一月に迫ろうとしていた。
「……また、出直します」
聖女の様子を見て、アレックスは部屋を出る。
リビングに戻ると、買ってきた食品を整理し始めた。
「あの、団長……本当にこのまま聖女様をお支えするおつもりですか?」
カタン……と、テーブルに置かれた瓶が接触して音を鳴らした。
「……なにか不都合か?」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
アレックスは、聖女の【
それも操りやすいように、もっとも濃く……身体まで繋がって。
「レフィル様は今、心身ともに弱ってしまっている……我々が支えてあげなければ。そうだろう?」
「……はい」
その意志に、揺るぎはない。
迷いも、疑問もなにもない……聖女にかけられた【
◇
「……許さない、絶対に許さない……」
ガタガタと怯える聖女の心には、あの黒い一撃が焼き付いていた。
自分の頭の半分を消し去り、【
痛みで眠れず、食事すら出来ない。
普通ならば死んでもおかしくない、なのに……自分は生きている。
まるで死すことすら許されていないような、そんな状態だ。
生きることが苦痛に感じるほどに、聖女の心は
「絶対に許さない……アタシをこんな、こんな
触れても何もない虚空。
感覚もなにも感じず、脳が【
今の聖女に、再起する力はない。
帝国南部の村で、密かに、静かに恨みを綴る聖女は……闇に沈む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます