リバースストーリー1−3【女王は讐敵に燃ゆ】



◇女王は讐敵に燃ゆ◇


 【リードンセルク王国】……来月より女王国と名を改めることが決まったその国を治めるのは、シャーロット・エレノアール・リードンセルクという若き少女だ。

 薄紫の髪を肩口で揃え、深紅クリムゾンレッドの瞳は世界を恨む炎のように……ある男への身勝手な復讐心を燃やしている。


「報告は終わり?」


「――は、はいっ!」


 女王の玉座に座る少女は十四歳とは思えない態度で、ひざまづく男を見下す。見下ろすではない……見下しているのだ。


 報告をしたのは【王国騎士団・セル】の騎士。

 聖女の遠征を遠くから監視していた人物だ。


「いいわ。下がりなさい」


「はっ――失礼いたします!!」


 まるで逃げるように、騎士の男は去っていった。

 それを見届けて……奥から声がかけられる。


「――クロスヴァーデン大臣傘下、【リューズ騎士団】。および聖女レフィル・ブリストラーダの【ブリストラーダ聖騎士団】は壊滅、【王国騎士団・セル】も……その戦力は十分の一まで低下……このままでは、国防も叶いませんね……」


 その声は男だった。

 優しい声音だがどこか無機質な、感情のない声はシャーロットの耳に入る。


「まだいたのね」


 その声の持ち主は玉座までやってくると、腰を下ろして座った。

 何もない場所に、さぞ座り心地のよさそうな椅子に腰掛けるように。

 空気イスである。しかも足を組んで。


「存外寂しいことを仰りますね。まぁしかし、聖女の傀儡おもちゃの統制はお見事でしたよ女王……あれだけいた木偶デク?でしたっけ?あれは消さない限り死にませんし、爆弾として使うのなら便利ですが……いかんせん知能がない。上位と言える部類の兵士は、まだ戦闘と言える動きをしますけどね」


 ペラペラと。


「消えなさい。ウザイのよ……お前」


 男に殺意を込めた視線を突き刺すが。

 男は笑いながら。


「はっはっはっ……これは手厳しい、そうやって転生者たちを殺してきたんしょうねぇ」


「――そうよ。でも……お前は死ななかった」


 その通り……この男もまた転生者である。

 しかしシャーロット特有の転生者キラーも、この男には通じなかった。

 それは【女神イエシアス】すらも驚いた、この男の強さだ。


「当然でしょう。私は……悪魔・・ですからね、そういった負の感情には、慣れているのですよ」


 この男は……魔族の最上位種、悪魔だった。


「忌々しいわね、転生者なのに殺せないなんて」


「ふふふ、ですが良いこともあったでしょう?……私が差し上げた宝玉それ、使い心地はいかがですか?まがい物にしては良い物でしょう?」


「……」


 シャーロットの左腕には腕輪がはめられていた。

 その腕輪に輝くのは……ブラックダイヤモンドのような輝きの黒い石だった。


「ふむ……何も言わないということは悪くないと捉えますよ?貴女あなたの持つ本物・・と遜色のない性能をしているんですからね」


「勝手にすればいい。使えるものは使う……使えないものは捨てる、それだけよ」


「さいですか。それでは私はこれで……あ!そういえば、【女神イエシアス】は捕らえられたらしいですね、かの村で。私もあの女神に転生された身、少し悲しいですよ」


 帰ろうとしたのに、男は立ち止まって口を開く。

 シャーロットでは殺せない転生者、悪魔の男。


「それがなに?あれも結局は雑魚だったって訳でしょう……」


「はっはっは!女神を雑魚呼ばわりですか、これは面白い!でも確かに、女神は神界の半分も力を使えないと言うし、貴女からすればそうなのかもしれませんねぇ……シャーロット女王」


 悪魔の男は大笑いし、シャーロットの一睨みをその身でくすぐったそうにしながら……徐々にその身体を薄めていく。


「おっと、そろそろ時間のようだ」


「その身体……幻だったというわけね」


 シャーロットは、魔力の流れをようやく掴むことが出来た。

 これで殺せると、力を発動しようとした瞬間の出来事だった。


「はっはっは!!バレましたね、その通り……私の本体は今も【ラウ大陸】ですよ!だから貴女の殺意も効かないんです」


「ちっ……」


「なにせ悪魔なものでね……混沌こそ我が望み、でも時代は今じゃあない。ならばどうしよう、こうしよう!……場を掻き乱しましょう!少しでも未来で――強敵と出会えるように!!はぁーっはっはっは!!」


 そう笑いながら、悪魔は消えていった。


「……」


 爪を噛み、苛立ちを加速させる。

 自分が利用されたと、今気づいた。


 とはいえ、腕につけられた黒い宝石が自分の力になっていることは否めない。

 本物――と呼ばれたシャーロットの持つ宝珠、その複製品。

 代々リードンセルク王家に伝わる黒い宝珠、強力過ぎるが故に秘宝でありながら誰一人として使用できなかった【神器アーティファクト】。


 全世界を範囲とした悪意や憎悪の増幅器。

 それが秘宝――黒の【オリジン・オーブ】。

 悪魔が差し出した宝珠は、その精巧な複製品だった。


 いずれ本物の【オリジン・オーブ】をも掌握し、女王はある意味、二つのオーブを持つに至るだろう。


 【開闢者オープナー】ミーティア。

 【次代の女神】アイシア。

 【竜人ドラグニア】リ・アイリス。

 【帝国皇女】セリスフィア。

 【女王】シャーロット。


 EYE’Sアイズ三名と、そうではない二名。

 そしてまだ見ぬ、六人目。

 彼女たちが世界に揃う時も近い。


武邑たけむらみお……」


 呟く名前に憎悪を込めて、不死の女王は瞳を閉じる。

 心の奥底から語りかけてくる……本来のシャーロットの声を封殺し、世界中に憎悪を振りまく最凶の女王……歴史に名を残す災厄の女王の名は――シャーロット・エレノアール・リードンセルク、その人である。

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