リバースストーリー【8章〜9章の舞台裏】

リバースストーリー1−1【リューズ騎士団の終焉】



◇リューズ騎士団の終焉◇


 【帝国精鋭部隊・カルマ】によって敗北した、【リードンセルク王国】の騎士団……それが【リューズ騎士団】という、自由を謳った騎士の集まりだ。

 正式には騎士ではなく傭兵に近しい存在だったが、王国大臣ダンドルフ・クロスヴァーデンの莫大なる資金によって買われ、王国に所属する騎士団となっていた。


 しかし、彼らは風前のともしびというまでに、戦力を低下させていた。

 ユキナリ・フドウとライネ・ゾルタールによって敗走し、その戦力の大半を削がれた後……生き残ったのは数人の騎士のみ。

 その一人、ヨルド・ギルシャは。


「……クソ……どうして皆っ!俺なんかのためにっ!」


 馬車の中で、悔しさと不甲斐なさに涙を流し揺られる。

 あの時、ユキナリ・フドウが築き上げた死体の山……彼はその真下で生き延びていたのだ。

 そして後方で待機していた数人によって助けられ、今こうしている。


「ゲイルさん、俺に何が出来るって言うんすか……」


 ヨルド・ギルシャが見つめるのは、隣で横たわる男。

 ライネ・ゾルタールに敗れた、レイモンド・コーサルだった。


「……コーサル、起きてくれよ……」


 帝国の人間と戦っていたのは、ゲイル・クルーソーとレイモンド・コーサルだ。

 ゲイル・クルーソーはユキナリに敗れたあと、【王国騎士団・セル】の団長リディオルフと聖女レフィルに利用され、そして命を落とした。

 レイモンド・コーサルも、ライネ・ゾルタールと戦ったが、ヨルドが助けられた頃には命を落とした……と、戦ったライネは思っているだろう。


「――うるせぇよ、寝かせとけ」


 突如として、死体と思われたその口から吐かれた言葉。

 まるで起こすんじゃないと言いたそうな言葉にヨルドは。


「コ、コーサル!!よかった、やっぱり・・・・生きてたんっすね!!」


「ぐえっ……だ、抱きつくな気持ちわりぃ!!」


 レイモンド・コーサル。

 能力――【収縮シュリンケージ】を持つ転生者。


「やっぱり、能力で心臓を収縮しゅうしゅくさせてたんすねっ」


「ああ、一時的に仮死状態だった……あれから何日だ?ゲイルの奴は?」


「……」


 質問の返答は得られず。

 しかしそれだけで、ゲイル・クルーソーの命運は理解した。


「そうか……まぁあの時点でかなりやられてたからな。俺が生き残ったのは、マジで偶然と、能力のおかげか」


 自身の傷に触れ、最後の一撃を思い返す。

 ライネの剣撃は確実に命を狩るものだった。一撃受けた時点で即死は確実、だからコーサルは【収縮シュリンケージ】を二度かけた。

 一度は傷の内側を軽症にし、外側の傷だけで死んだと思わせるため。

 二度目は心臓の鼓動を聞こえなくし、完全に死体に擬態するために。


「コーサルの能力は把握してましたっすし、回収できて良かったっすよ……マジで、それだけでも」


 コーサルが見る限り、あの時の部隊のメンバーはヨルドと数人のみ。

 全員死んだのだと、それだけで分かる。


「それで、ここはどこなんだよヨルド」


「あ、ここは【パルッテ街道】を過ぎたところっす。もうすぐ【王都カルセダ】に着くっすね」


「……【ステラダ】から十日以上じゃねぇーか」


 それほどの時間仮死状態だったのかと、コーサルは辟易へきえきする。


「そっす。だから俺らは……大臣に報告しなきゃならねーんすよ」


「……だな。それで終わりだな……俺らの短けぇ歴史は」


 仲間の死を、任務の失敗を、路頭に迷う覚悟を。

 そうして【リューズ騎士団】の歴史は閉ざされることになる……例え、倒すべき相手が別の場所でいようとも、団と言う形態は終焉するのだった。

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