エピローグ9-3【四女神】



◇四女神◇


「――お久しぶりですね、ウィン」


「あたしは数回しか会ってないわね」


 教会内に設けた特別な部屋、ここは会議室に近いな。

 そこには既にアイズとエリアルレーネ様、そしてクラウ姉さんとセリスが控えていた。


「おーーー!エリア!アイズ!……あとイシスもいるではないかぁ!」


「……私をついでみたいに言わないでくれる!?」


 天井からブラブラと吊り下げられて、イエシアスが吠えた。

 まぁ吠えておけ、それがお前の立場だ。


「ワハハハ、久しいなぁ……ここに来て正解だったぞ!ルーの言葉も聞いて見るものだっ!!」


 室内を駆け回る女神、エリアルレーネ様は笑顔で、アイズは疲れたように、イエシアスは腹立たしそうに見ていた。


「このガキ……!」


 特にイエシアスは憤怒の顔だ。

 こいつ、一番欲望というか……感情に忠実だな、一番人間っぽい。


「ンハハハ!イシスの野菜巻きじゃん!」


 バシバシと、イエシアスを拘束している布を叩く。

 うん……緑色だもの、キャベツかレタスの野菜巻きだね。


「このドチビがぁぁぁぁっ!!」


 叩かれてプランプランと揺れる。

 もう俺に見せた怒り顔より怒ってるじゃん。


「ごほん!……ウィンスタリア、村に何か用なの?」


 自分から座り始めて、アイズがうながす。

 それに合わせてエリアルレーネ様も席に着き、それぞれ後ろにクラウ姉さんとセリスが控えた。ってか無言かよ。


「おおそうだった!フッフッフ……聞いて驚けアイズ!ウチは……」


 ぴょんと跳ねて、椅子にダイビング着席。

 その後ろにルーファウスと、フードの……女性か?


『――この反応は……』


 いいから黙っとけウィズ、それどころじゃない。

 敵意がないのは俺も分かるし、今はいいよ。


『……はぁ』


 座ってもなお、落ち着きなくゆらゆら揺れてニッコリ笑顔。

 マジで幼女なのか、この女神。

 でも……女神の寿命は千年、見た目じゃないよな、多分。


「ウチはなぁ……ンフフフ〜……」


「……いいから言いなさいよ」


 おお、アイズがイライラしてる。


「――むぅ、せっかちだなぁアイズは……まぁいいか、実はな!ウチ……領土を返しに来たんだぞ!!」


「「え?」」

「「は?」」

「「……」」


 いったい、誰がどの反応をしたんだろうな。

 驚きと戸惑いは当然っちゃあ当然。

 しかしそれ以上に……領土の返還……それはつまり、エルフの国の返還か……もしくは。


「驚いたな!?やったぞルー!成功だーっ!」


「ウィ、ウィンスタリア様……」


 順序のなにもない、脈絡のないその宣言に、ルーファウスは頭を抱えた。

 あー多分……これルーファウスが言う予定だったやつだわ。


「ルーファウス……大変なんだな、お前」


「ミオくん……」


 ああもう泣きそうになっちまって。

 仕方ない、助けるか。


「……ウィンスタリア様、今の発言は……村には関係ないお話のようにも見受けられますが」


「むぅ?そうか……?」


 小首を傾げるウィンスタリア様に、エリアルレーネ様が。


「そうですよウィンスタリア。この村は、あくまでも【サディオーラス帝国】の村なのです……その村に直接、領土返還など言っても仕方がありません」


 その通りだ。

 ただし、この場の一人を除いて……な。

 それを当然、エリアルレーネ様も理解している。


「――ですが、で・す・が……わたくしがどこの国に崇められる女神か、忘れたわけではないでしょう?」


 おお、久しぶりにわたくしって言った。

 最近はずっとわたしだったし……きっと素だったんだろうな。

 今は仕事モードか、なるほどアイズもだ。


 と言うか国の半分はアイズも同じだろうが、面倒臭そうにしてるんじゃないよ。


「当然だっ!うん、だから言っておるのだぞ、ウチは」


「本当にもう……セリスフィア皇女、前へ」


 呆れてるエリアルレーネ様。

 しかし後ろのセリスへうながす。

 しっかりと皇女と付けて。


「――はい、エリアルレーネ様」


「……皇女……様?」


「お初にお目にかかります、救世の女神……ウィンスタリア様。私はセリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス……【サディオーラス帝国】の皇女です」


「おお!なんともいいタイミングでおるではないか!うむ、今回の領土の返還というのはなっ」


 いやいや、進めるの?

 領土の返還を言うべき人物は……確実にジルさんだよ、女神様。

 だけど、エルフ族に領土を返す意味は……正直ないんだ、それが分かるから、ジルさんは何も言わない。


「……」


 帝国に領土を返還……正確には、明け渡し。

 それは融和のための譲歩か、それとも戦時のための準備か。

 それは、この会議に居合わせた俺たちが見届ける――三国の国境に誕生する村の……世界一の村の始まりだった。




~ 第9章【豊穣に集い、運命と共に進む未来】エピソードEND~

―――――――――――――――――――――――――――――

 9章終了です。会話多めと言いつつ、ラストでデカ目のバトル挟んでしましました。ラストPartは最長でしたね。

 しかし大きく話は進みましたし、一つ……片付いた話もあります。

 ユキナリ・フドウは、転生者であって転生者ではない……そんな彼の立場は、今後変わることでしょう、ミオと真逆か、それとも共に歩むのか、まだ未定です。

 次話からは、今までサイドストーリーとして展開してきたエピソードでしたが、今回9章は少し変えて、完全な裏側……9章の裏で起こっていた話をまとめるつもりです。

 シャーロット女王や聖女レフィル、【リューズ騎士団】とかジェイルとか、9章では村から出ませんでしたので、その補完をしたいと思います。

 アレとかアレとか、謎も分かるかも??

 話数はまだ未定ですが、なるべく短くする予定です。


 それでは、節目の10章もよろしくお願いいたします!

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