エピローグ9-1【救世の女神】



◇救世の女神◇


 戦いから数日、身体を休め心を休めた俺たちの村に、訪問者が訪れた。

 それは東から……驚くほどの人数で、豪華な馬車に乗って現れたんだ。


「ミ、ミオーー!」


「あ?どしたガルス……そんなに慌てて」


 俺はセリスの身体を見ていた。

 オイコラ、全然いやらしくなんてないぞ、診察だからな。


 サッと衣服を直しつつも、赤い顔のセリス。


「あ!!すまないミオ……邪魔しちゃって、じゃなくて!!お、お客さんが来たんだ……!東からっ!結構な大群だよっ!ど、どどど、どうしよう!」


 邪魔とか言うな、そんなんじゃない。


「なんだって!?」


 と、わざとらしく驚きつつも、ウィズの【感知かんち】で知ってましたけども。

 そして誰かももう把握済みであり、丁度セリスにも話していたところだ。


「……ではミオ、帝国との事は……」


「オケ、分かってるよ」


 最近セリスは元気がない。

 ユキナリは未だに目を覚まさず、ライネは魔痕まこんと呼ばれる、魔力による体内ダメージを受けていた。

 セリスの傷は、進化した【無限むげん】で元に戻す事ができたよ。

 ただ神経は繊細すぎて、元の遺伝子情報を知らない俺ではそこまで復元ができなかったからな……要リハビリだ。


「じゃあ行くわ、ガルス……ミーティアとジルさんを呼んどいて」


「え、あ、え!?」


 コラコラ田舎者、セリスのはだけた服をチラチラ見るんじゃありません。

 さぁて、覚えのある気配は……ルーファウス・オル・コルセスカ。

 そして新たな強力な気配は、感じから女神なのは確実。


 きっとアイズたちも気付いてる。

 このやる気に満ちた、底しれない魔力の気配……また一味違う女神なんだろうなぁ。





「おおー!ここがアイズの村かぁ!野菜が美味だと噂のなー!」


「……ウィンスタリア様、立ち上がらないで下さい」


 派手な馬車から顔だけを出し、近くに見える待望の村を視界に入れる。

 髪は整えられてまとめられ、声は甲高く幼い。

 背は低く、クラウよりも小さな身体だった。


「なんだルー、小さな事を言うもんではないぞー、だから身体も小さいのだ、ワハハハ!」


「ウィンスタリア様に言われたくないですよ……はぁ」


 赤毛の少年はため息をつく。

 本来は、もう少し早くに到着する手筈だったからだ。

 少年……ルーファウスは、早くに村に駆けつけたかった。

 しかし、彼の立ち位置は難しい。


「ワハハ、そりゃそうかー!ウチの子孫だものなぁ!」


「……はぁ」


 【女神ウィンスタリア】。

 元・貴族の女神……そして、元・天使である。


「フッフーン♪……ん?おいルー、いいからそこのお姉ちゃんのフードを取るのだ」


「いやでも……姉上・・は」


 ルーファウスの隣には、フードを目深に被った少女がいた。

 ちらりと見えるのは、ルーファウスと同じ赤髪と緑目。

 一歳年上の姉だった。


「き、気にしなくていいから……」


 そうボソリと呟く少女は、どう見ても挙動不審だった。

 先祖である女神と弟に見られて、フードを更に深く被り直して外を向く。


「……あ、着いたみたいですねウィンスタリア様」


「おお!着いたかやったー!」


 バンッ――と勢い良く馬車の扉を叩き開け、ウィンスタリアは外に出た。

 背伸びをし、猫のように欠伸あくびをすると……


「……ようこそ、【豊穣の村アイズレーン】へ……【女神ウィンスタリア】様」


「お……おお!?」


 金髪の少年が、門で出迎えてくれた。

 丁寧に頭を下げ、笑顔を見せた。


 しかし数は少数、三、四……極少数だ。


「――ミオくん!」


 ルーファウスも馬車から降り、久しぶりに顔を見た友人の無事を喜ぶ。

 そしてその傍らには、国境まで送り届けた少女と、エルフの女性もいた。


「よっ!ルーファウス」

「ルーファウスさん!」

「待っていたぞ、ルーファウス」


「皆さん……すみません、僕の勝手な判断で遅れてしまって」


「いいさ。あーでも、話は聞いちゃったよ」


 それはルーファウスの内々の話。

 隠していた素性の話だ。


「い、いえ!全然構わないです……僕は皆さんに噓をついていたようなものですから……ただ、それでも僕たちを――【女神ウィンスタリア】様を受け入れてくださりますか?」


 エルフの里への道中で、女神の事を知らない風に言っていた事だな。


「おいこらルー、ウチを汚物のように言うなっ!」


「ははは、面白い女神様ですね……こんな場所ではなんですから、こちらへ」


 女神の苦情に、ミオは笑顔で手を差し出す。

 そして更に続けて。


「我が女神、アイズレーン様と、運命の女神エリアルレーネ様も……歓迎なさっています」


「ワハハハハッ!そーだろうそーだろう!」


 大股で歩き出し、門をくぐる。

 そこは……何もない村だった。

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