9-117【国境の村にて女神は集う41】



◇国境の村にて女神は集う41◇


 ユキナリ・フドウはここで死ぬ。

 運命には抗えない、それが定めなのだから。

 女神が抵抗しようが、長年、その歴史は繰り返していた。

 だから今度も、大切な転生者こどもが命を落とそうと、受け入れるしかないと思っていた。


 それが【運命の女神エリアルレーネ】なのだから、と。


「……ユキ、生きて……いるの?」


「そうみたいね、だから言ったでしょ?」


 二柱ふたはしらの女神はそれぞれ考えが違っていた。

 アイズレーンはミオに近寄り。


「……悪かったわね、出てこれなくて」


「……いいさ。不干渉が女神の考えなのは、理解しているよ」


 頭を一瞬だけ下げたアイズに、ミオは笑みを浮かべる。

 こうなるとは、考えていたのだ。


「まぁでも、よくやったわ……ミオ」


 倒れるユキナリに近寄るエリアルレーネの背を見ながら、アイズはミオにそう言う。優しい声音の、救われた人の声だった。


「そう簡単には死なせねぇよ、誰もな」


「……だと思ってたわよ」

(どうよエリア、あんたの馬鹿な運命……あたしの転生者こどもが変えてやったわよ)


 「だろ?」と笑い合う二人。

 そしてミオはエリアルレーネに近付き。


「安心してください、エリアルレーネ様の転生者は全員無事です……セリスとライネは怪我はしてますし、ユキナリからは……能力を奪いましたけど」


「「!!」」


 「あああ、あ、あんたねぇ」とアイズは焦ったように。いや、実際焦っている。


「――いいのです、アイズ」


「分かってます、多分ですけど……御法度ごはっとなんでしょう?」


 それを理解していても、ミオは行動を起こしたのだ。

 現在協力関係にあるアイズレーンとエリアルレーネ、その転生者から能力を奪うということが、はたから見れば裏切り行為であると。


「まさしくそうよ。い、いやでも……」


 アイズは言い淀む、何か思うところがあるようだ。

 そしてそれはエリアルレーネも同じであったようで、こう言う。


「そうですね。そもそも能力を奪うと言う行為を行える人物が……今までの歴史にいたでしょうか……」


「いないはずよ。過去の転生者の中に、【強奪ごうだつ】持ちはいただろうけど、能力奪取まで覚醒した転生者はいない」


 ミオの場合、初めから能力レベルが最大値だ。

 更には【超越ちょうえつ】の効果で、種族が上位と成ったことでの進化だった。


「ですので、御法度ごはっとも何もないのです……運命だったのですよ」


「運命……ですか、ユキナリの?」


「……いいえ」


 「でしょうね」とミオはエリアルレーネの返答を予測していた。

 そしてこう続ける。


「エリアルレーネ様の言う運命では、ユキナリは今日この場で死んでたんじゃないですか?下手をすればセリスとライネも」


「そ、そんな!」


 ミーティアは驚く。

 知っていて、何故行動しなかったのか、そういう驚きだろう。

 普通に考えれば、それは無慈悲な傍観だ


「ティア、それが女神なんだ……アイズだって、ここに来なかっただろ?」


「そ、それはそうだけど」


「だけど、今回の場合はアイズはエリアルレーネ様に合わせたんだと思う、だろ?」


「……まぁね」


 アイズは村の住人を救ってくれている。

 転生者でもない村人を。


「でもあたしは……あんたが救ってくれると思ってたわよ。賭けだったけど、あたしの勝ちね♪」


「……へぇ、ベットは?」


「オールインよ!」


 サムズアップをするアイズ。

 アイズは初めから、ミオがこの状況を打破すると、エリアルレーネの運命をひっくり返すと考えていたのだ。


「全賭けかよ……無茶すんなぁ、はははっ!」


 笑えればそれでいい。

 そう言わんばかりに声を出して笑うミオ。


「……ユキナリ……」


 優しく頬を撫でるエリアルレーネ。

 頬に伝うのは、涙だ。


「――死んでほしくなかったんでしょ、エリアルレーネ様だって。だけど貴女は女神様だ……個人の感情で動くことは出来ない、それが例え、自分の転生者であろうとも」


 だから見捨てようとした。己を殺して。


「ミオ……感謝、します。女神になって、輪廻を繰り返し……長い歴史の中で、ここまで、嬉しいことはありません、でした……私は、君を支持しましょう」


 声が震えている。肩が揺れている。言葉が詰まる。

 救ってほしかった。助けてほしかった。一緒にいたかった。


「いいんすよ、俺はこの馬鹿に……日本のことを教えるって約束しちゃいましたし……あれ、したっけな?ははっ、まぁいいや。そういう事ですから――おし、ティア、あっち行こうぜ」


「え、ええ……いいの?」


 「いいのいいの!」とミオはミーティアの背に手を当てて歩き出した。


「……凄い子ですね、アイズの転生者こどもは」


「なぁにがよ、あいつは物持ちが良いだけ。捨てられないのよ……自分に関連した物を、関わった人を……そんなことより、その子は今後大変よ?」


「……分かっています。ユキナリはもう転生の特典ギフトを持ちません……ですが、因子・・が残っています……おそらく【支配しはい】で取り込んできた魔物たちの……でしょう」


「……未来は魔王様ねぇ」


「……どれだけ先か、分かりませんが……」


 現在、この世界には魔王と呼ばれる魔族の王が数人存在している。

 人間に王がいるように、天族に王がいるように、魔族の王も。

 二柱ふたはしらの女神は思う――「出来ることなら、その未来……善の魔王として君臨することを」……と。

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