9-114【国境の村にて女神は集う38】



◇国境の村にて女神は集う38◇


 ユキナリの馬鹿が求めているのは、日本への転生と……知識だ。

 きっとこいつは、今まで何度も求めているはず、教えて欲しいと願っていたはずだ。

 転生者である母親に、エリアルレーネを始めとした、仲間たちに。


 エリアルレーネも仲間たちも、前世のことはほとんど話さなかったんだろう。それは激しく同意だし、俺もクラウ姉さんも隠していた。

 それが普通なんだろうさ、多分……他の場所にいる多くの転生者も、隠す方が多いんだ。


「ユキナリっ!話を聞けっ!!俺が……っと!聞けっつの!!」


 攻撃は単調、避けるだけなら簡単だ。

 しかし話聞けよ!!教えてやるって言ってんだぞ!?

 知識を与えてやるのは良いが、まずは大人しくさせねぇと。


「オレハ!オレハァァ!」


 ひしゃげた腕を振り回して、鞭のように。

 いや、この場合は無知かもな……


『――上手くはないです』


「分かってるよ!……【極光きょっこう】!」


 光を両腕に発生させて、ユキナリの攻撃を弾く。

 殴り合いなら受けて立つ、斬り合いなら御免被るけどな。これ以上血を流したくないし。まぁ【哀傷あいしょう】で切り傷は痛くはないんだが。


 ドガ――


「ミオッチィ!ガハッ……!グッ」


 バキ――


「……黙って話を聞――いっでぇ!……カウンター出来る理性あんなら話聞けやコラ!こっちも魔力足りなくてジリ貧なんだよ!」


 ガッ――ゴッ――


 まるで子供の喧嘩だな。

 だけど、それに付き合うのも……大人かな。


 ガス――


「デモ!モウオレハッ!」


 ドカ――ドカドカ……がむしゃらやめろ馬鹿!!


「デモもヘチマもねぇんだよ!」


 そういえばコイツ、前から俺と戦いたがってたよな。

 こんな形で戦うのって、お前からしたら不本意なんじゃないのかよ。


 バカスカ殴り合う、いてえし。


「いいか!日本の知識はなぁ、正直言って異世界では異端なんだよ!ましてやこんな未発達の文明で!」


 これがSFや近未来の異世界だったら、逆に遅れているまであるが、ここは剣と魔法のファンタジー世界、それも遅れた文明の異世界だ。


「ソレデモオレハッ!!シリタカッタッ!!」


「だから教えるっつってんだろが!!このわからず屋がぁぁぁ!」


 【極光きょっこう】のオーラを全開にして、俺はユキナリの顔面を殴った。

 輝く右腕は直撃した瞬間にパッと弾けて、光源のように煌めく……降雨を反射して、幻想的な空間を生み出した。


 ユキナリは吹っ飛んで尻餅をつく。


「……」


『――ミオ、ユキナリ・フドウの詳細が判明しました。一連の騒動はやはり、イエシアスによる精神関与です。それと……能力【支配ドミネーション】の暴走でしょう』


 能力の暴走、つまりは進化に耐えられなかったんだ。

 強くなる過程で、コントロール出来なくなった【支配しはい】の能力に、逆に操られた、そこをイエシアスが目をつけたんだ。


『……それと、イエシアス以外のアクセスも見受けられました。おそらくですが――【オリジン・オーブ】かと、誰かまでは不明です』


 ウィズの言葉に、一瞬で視界に入る【オリジン・オーブ】の所持者。

 アイシア、ミーティア、セリス……ここにはいないリア。

 まぁこの誰もが、そんな事をするとは考えられないが。 


『――魔力の波長は……黒』


 アイシアは紫、ミーティアは青、セリスは緑、リアは赤。

 残るは白と黒……その黒い【オリジン・オーブ】の所持者が、ユキナリに呪いをかけた……そんな感じか。


「ふんっ……やっぱりな。付け込まれたんだろ、お前」


「……チ、チガウ、オレハ――オマエタチノ……テキダ。ダカラ、ココデオワレバ……キットヒメサンモ、ライネモ……」


 血を拭うユキナリ。


 お前……どこまでも自分が招いた事だって言いたいのか?

 そうすれば確かに、セリスやライネは騙された事に出来る、帝国との関係も……ユキナリ・フドウと言う反逆者を排除したという功績に変わるからな。


「だから敵役になるってのか。それだと、お前はここで死ぬだけになるぞ……いいのかよそれでも!」


「……ングッ!」


 無理矢理立ち上がらせて、俺は全力で右腕に魔力を込めた。

 コイツの覚悟は分かったよ、自分がきっかけになった村の戦い、巻き込まれた仲間や、俺たちの事……お前は死んで償うって言うんだな。


「――歯ぁ食いしばれっ!!この馬鹿……野郎がぁぁぁぁ!!」


 そうはさせるかよ。

 異世界がそれを望んでも、俺は受け入れない。


 お前を凶行に走らせたのはイエシアスによる能力。

 そしてまだ見ぬ【オリジン・オーブ】の所持者。

 きっと繋がりがあるはずだ……生憎あいにくイエシアスは手中だ、この場を乗り切れば、追求でもなんでもしてやるさ。

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