9-113【国境の村にて女神は集う37】



◇国境の村にて女神は集う37◇


 その瞬間は、まったくの偶然だった。

 ウィズが言う『ミーティアが大変』に含まれていたのは、クラウ姉さんやイリア、セリスにライネも合わさってのことだ。


 イエシアスを放置してまで、俺は【転移てんい】で魔力の集中する一点に移動する。直感的に感じた魔力、それは死の一撃だったからだ。


「……ミ、ミオ……?」


 誰が呟いただろうか、もしくは全員だったかも知れない。


「よぉ馬鹿ユキナリ。少し見ない間に……まるで魔王様みたいじゃねぇかっ!」


「……ミオッチ……」


 ちらりと、俺は突き飛ばしたセリスを見る。

 悪いな……間に入って突き飛ばさないと、土手っ腹がスカスカになってたからさ。


「ミ、ミオ……!」


「ミオ!!」


 クラウ姉さんとミーティアが俺を呼ぶ。


「悪い姉さんっ!遅れ――」


おっっっっそいのよぉぉ!!」


 ひぃ!怒られた!

 でもまぁ当然だ、こんな時に何してんだよ……だよな。


「ご、ごめんって、イエシアスの奴が来てさ……戦ってたんだ」


「はぁ!?イ、イエシアスゥ!?」


 ギリギリと、ユキナリは力を込めている。俺は離さない。

 目的はセリスか。どうしたんだよお前は!


「ユキナリ、お前話はできるな!?」


「……アア」


「なら今すぐにその手を鎮めろ、身体も元に戻せ……今ならまだ、自己中ケバ女神のせいってことにしておいてやる……あいつになにかされたのは明白なんだ、お前を擁護してやる」


「……デキネェ」


「ちっ――そうかよ!」

(くそ、もう少しだけ早ければ……!)


 こいつ、もう引けない所まで来てんだな。

 村に迷惑をかけた、誰かを傷つけた、だけど今、自分の意志はもう戻っている……だから戻れない。このまま戻っても、どうしたらいいいか分からねぇんだろ?


「随分と子供っぽい事するよな」


「……ワカッテ――」


「お前じゃねぇよ!!女神だっ!!」


 黒い眼光を見開いて、ユキナリは俺を見る。

 驚きか戸惑いか、それとも両方か。

 責められると思うよな、怖いよな。

 誰かを傷つけそうに、壊しそうに、奪ってしまいそうになって。

 罪悪感と焦燥感しゅうそうかんで、心が追いつかないうちに、酷い現状を見せられて。


「ワルガキみたいに他人のおもちゃを欲しがって、人の心を転がしてほくそ笑む!そうして散々掻き乱して、最終的にはいいとこ取りだ!」


 うおっと、力すげぇなこの腕、【丈夫ますらお】全開でギリギリだ。


「女神のたちが悪いのは、それを遠くから……自分で動いてやらないことだ!自分の目的のためだけに動いたイエシアスが、今回はまともに見えるぜっ!」


 俺はアイズやエリアルレーネをディスってるだろうか。

 女神は、基本的には傍観者だ……それが普通なんだろうさ、でも……この馬鹿はエリアルレーネの大切な転生者こどももなんだろ?

 セリスだってそうだ、ライネも……それなのに、エリアルレーネは動かない。


「チガウ!オレハ……」


 自覚してんじゃねぇか。

 助けて欲しかったんだろ!エリアルレーネに!


 ブン――!と、反対の腕が顔面に迫る。


「――違わねぇよっ!!」


 ガッ――と反対の腕も掴み、取っ組み合いだ。


 この現状をかんがみれば、アイズもエリアルレーネも関与していない。

 イエシアスがやったこととも、気付いていない可能性もある。


「……ミオッチ、オレヲコロセ……ソレデオレハ!」


「てめぇ……ざけんなよっ!!」


 死ぬだと?殺せだと?

 一度誰かの手で死んだ俺に、それを要求すんのか……お前は!


「命は一つだ。だからコンティニュー出来てる転生者おれらは、恵まれてんだよ!……こんな異世界だ、命を奪う時もあるかも知れない、実際……この前【リューズ騎士団】の騎士にトドメを刺したのは俺だ、俺が殺したも同然だ!だけどな……自分からは死ぬつもりはないっ!皆同じだ、二度目の人生があるのは、偶然でしかないんだ!」


 お前は、転生を望んでるのか。


「オレハ……ニホンニ!」


「そんなもんは出来ねぇんだよ!転生のシステムは、女神が全員この世界にいる時点でストップしてるんだ!もう誰も、転生者は生まれない、ましてや別の世界に転生は出来ない!!」


 グググ……と、俺が押し込む。


「――グ、ダガ……!」


「転生するのに必要なのは死じゃない!能力だっ!その全てが、この世界に存在している以上、新しい転生は不可能なんだよっ!お前がイエシアスに何をされたか知らねぇがな……これ以上暴れたら、戦争だぞ馬鹿が!!」


 それは絶対に避ける。

 今、上手く行きそうだった帝国との関係を瓦解がかいさせたくはない。


「揺らいでんだろ!迷ってんだろ!なら俺たちの手を取れ、そして誠心誠意で謝れ!この場にいる奴らなら、お前を受け入れる!!」


「……モウ――オソインダ!!」


 グシャ……


「ぐぅっ……!!いてえええええええ!っなぁ!」


「ガァァァァ……!?」


 左手がぶっ潰された。

 だが代わりにユキナリの左手も潰した。

 分かってないだろ、何が起きたか。


「「!!」」


 二人で飛び退いて距離を開ける。

 ついでにセリスを抱えて。


「ナニヲ……シタンダ!ミオッチ!」


 グシャリとひしゃげたユキナリの左手、対して俺は指が折れた程度。


「……教えてほしかったら変身を解けこの馬鹿が。変身ヒーローじゃねぇんだ、生身で戦おうぜ?」


「――ヘンシン、ヒーロー……?」


「!?……そうか」


 そのユキナリの呟きは、探求と懇願。

 知らないものを知りたい欲求と、教えてほしいという教示。

 きっとこの馬鹿の願望を打ち砕くのは――知識だ。

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