9-110【国境の村にて女神は集う34】



◇国境の村にて女神は集う34◇


 空中戦が始まっていた。

 私とセリス、そしてフドウくんとの。


「――【光線剣レイブレード】!!」


 物理・魔力、両方の【光線剣レイブレード】ならば、硬い皮膚を貫通できるかも知れない。


「はぁぁぁぁぁ!」


 四足歩行の魔物と化したフドウくんは、音もしない翼で防御をする。

 ガッ――!!と【光線剣レイブレード】と激突、閃光が散り目を細める。


「――ウオォォォ!グラァァァウ!!」


 押し負ける!


「――ユキナリ、やめなさい!」


 風をまとい突撃してくるセリス。

 ドン――ッッ!!と、フドウくんの腹部に槍剣を突き立てた。


「グォア!……ヒメ、サン……!」


 セリスの足元には緑色の魔力が渦巻いていて、それが推進力となっているのが分かった。


「ユキナリっ!これ以上暴れるのなら、私は……貴方をっ!!」


 拮抗する魔力。

 先程のドンという衝撃は、物理ではなく魔力の激突だった。

 私もセリスも高い魔力に阻まれて、フドウくんに攻撃が到達出来ていないんだ。


「ウォォォォ!ガァァァァァァ!!」


「「うっ!」」


 音もなく羽撃はばたく。

 しかし衝撃は凄まじかった……耳がおかしくなりそうだわ。


 【サイレントウイング】と言う翼は音をたてない。

 しかし衝撃も超音波も出ている……厄介だ。


「セリス!フドウくんの翼をっ!」


「!?……分かったわ!」


 理解が早くて助かるわね、まずはフドウくんの厄介な翼を。


 ヒュン――


「――!!うぁ……!!」


 移動をしようと【天使の翼エンジェル・ウイング】を振動させた瞬間、視覚から襲いかかる何か……フドウくんの尻尾だ。

 まるで蛇……蛇の尾って別の魔物じゃなかった……?


「クラウさんっ!くっ……重いっ!!」


 蛇の尾に身体を打たれ、私は錐揉きりもみで吹き飛ぶ。

 セリスはフドウくんの腹の下、体重を預けられているのか、ドンドン高度が下がっていた。


「――かはっ……もう!唇切れたじゃない!」


 左手で拭い、【クラウソラス】に魔力を送る。

 このままじゃあ長期戦になる、それだけは避けないと。


 周囲……ミーティアはイリアを、抑えてくれたようだし。

 アイシアは、ジルに何か……教えられている?

 ライネはフラフラになって結界を張ってくれてる。


「【光線剣レイブレード】……最大でっ、叩き落とす!」


 両手に持ち替え、天にかかげる。

 魔力を送る、ドンドン送る。


「う……キッツ、でも!」


 空中戦は自分が有利だと思った。

 でも、二人で戦うなら話は変わるし、セリスは自由自在に飛べるわけではないらしい、ならばフドウくんを叩き落とす。


「クラウさん、そうかっ――【オリジン・オーブ】!」


 フドウくんから一時離れ対空し、風の魔力弾を撃つセリス。

 引き付けてくれるようね、ありがたい。


「ガォオオオオオ!」


 グジュリ……と、フドウくんは尾を増やした。

 その数八本、全てが蛇の頭だった。


「――まさか、【キマイラテイル】と【グリフォンテイル】の併用!?それに、【オロチ】……!」


 もう何がなんだか。


「数ばかり!……なら、これでぇ!」


 最大出力の【光線剣レイブレード】で一掃する!して見せる!!

 魔力光は煌々こうこうと輝きを増し、私の背丈などとうに追い越して、天まで届きそうな勢いの光の刀身。


 眩しい光を、フドウくんも認識した。

 ライオンのような魔物の目を細めて、セリスに誘導された高度で私を見上げる。


「セリスっ!」


「頼みますっ!」


 名を叫ぶ。このままではセリスにも直撃するから、避けろと。

 それだけで理解して、セリスは風を加速させて横にビュン――と飛んだ、まるでロケットね。


「フドウくん……反省しなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」


 名をつけるのなら――【断麗光牙レイバスター】だろうか。

 光の巨大な牙、麗しく輝き、悪を断つ。


「――クァ……!!」


 直撃の直前に、フドウくんが何かをしようとした。

 でももう間に合わないわ……だからお願い、このまま落ちて!!

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