9-109【国境の村にて女神は集う33】



◇国境の村にて女神は集う33◇


 ドオォォォォォォ――ン……!!


「この!暴れ馬ぁぁぁぁ!」


 叫ぶ天使の声は、魔物と化したユキナリの背から発せれた。

 ユキナリは文字通り暴れ馬のように、騎乗者を振り落とす勢いで動き回った。

 だから私も……そうさせないために。


「……ライネっ!結界を張る!」


「りょ、了解です殿下っ!」


 雷を纏った黒い角は、暴れた勢いでそこかしこに打たれていた。

 当たればただでは済まない。戦闘を長引かせない為には、適材適所が重要になる……悔しいけれど、私とライネはお役御免だ。

 クラウさんに言われた通り、守りに徹する!


「【護障風壁ごしょうふうへき】!」

「魔力全開っっ!!」


 私とライネは、ユキナリとクラウさんを挟み込むように展開し……魔力を練る。

 エルフの女性が結界を張ってくれてはいるが、この【アルキレシィホーン】の雷の威力は桁外れだ……だから二人がかりで魔力防壁を作る。


 バチィィィ!!バチバチィィ!!


「くっ……ユキナリっ!」

(押される、このままでは長く持たないっ)


「ま、魔力が、足りない……」


 既に打たれている雷の範囲に合わせて、二人の魔力をかけ合わせた障壁を展開したが、たったの二撃でひびが入った。


「――帝国の皇女よ!!そなたは戦闘に準じろ」


「……なっ!」


 背後から強力な魔力が、私の背を叩いた。

 視線だけで振り向くと、エルフの女性とアイシアさんが、手を合わせてこちらに向けていた。


「ア、アイシアさん……これ、【オリジン・オーブ】の魔力……」


 ドガァァッ――!と、天使……クラウさんがユキナリの翼に打たれて落下。

 翼を広げて光線を放ち牽制するが、ユキナリは【サイレントウイング】を羽ばたかせて浮遊を始めていた。


「殿下ぁ!もう魔力がっ……持ちま……せんん……!」


「ライネっ……くっ!すみません、高貴なるエルフのお方っ!任せますっ!!」


 アイシアさんから放たれるのは【オリジン・オーブ】の魔力。

 エルフの女性がそれを支えているのは、魔力の操作を教えた……いや、サポートして、【オリジン・オーブ】の魔力を利用して結界を補助させているのね。


 私はアイシアさんとエルフの女性に防御を任せて走り出す。

 「ライネっ!気を失うまでやり続けなさい!!」と、パワハラと訴えられてもおかしくない発言をして。


「ひ、ひぃぃぃぃ!」


 と言いつつも、ライネは全力で魔力を絞る。

 ごめんね、鼻血まで出してるのに。

 でも今だけ我慢して、後でご褒美あげるから。


 そして、戦闘では。


「――もうなんなのよ!翼が焦げるじゃない!」


「グゥオー!!」


 光る聖剣で雷を防ぎ、それでも散った雷撃に翼が焼けるクラウさん。

 【サイレントウイング】で対空するユキナリと、空中戦を繰り広げていた。


 その真下に到達して私は叫ぶ。


「クラウさんっ!援護するわっ!!」


「……た、助かるっ!でもどうやって……」


「それは、こうする!」


 槍剣となっている【オリジン・オーブ】に残りの魔力を注ぎ込む。

 溢れる緑色の魔力は風を表しているのか、周囲を巻き込む疾風のようにビュウビュウと吹き荒れる。


「――舞い上がれ、【飛鷹風月ひようふうげつ】!!」


 足を中心に風をまとう。

 浮き上がり、対空する技……クラウさんのように自由に飛び回りは出来ないけれど、それでも……善処はして見せる!

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