9-107【国境の村にて女神は集う31】



◇国境の村にて女神は集う31◇


 腕だけだったはずの魔物化は、臀部から尾を生やし、背からは翼を生やした。

 頭部の鋭利えいりな角は伸びて、常に電撃が発生するようになっている。

 身体は獅子や虎が混ざった複合魔獣のように、顔も……鷲のような鳥獣で、人間の面影など……もう存在していなかった。


「なんなのよ、なんなのよユキナリ!!それじゃあ……それじゃあ本当に魔物じゃないっ!!どうしてっ!どうしてなのよぉぉぉ!?」


 ライネが叫んだ。


「――ギュアアアアァァァ!!」


「避けてっ!!」


 ドゴォォォン――と、土煙を巻き起こしてた一撃。

 私と皇女、ライネは単体で別方向に。


 この状況、流石に単なるフドウくんの暴走だけではないと、分別の着く大人なら分かるはずだわ……更にはこの場に来れないミオ。


 攻撃のターゲットがライネに行ったわね……もしかして声に反応している?


「セリスフィア皇女、悪いけどまだミオは来れないわ……私たちだけでなんとかするしかない。さっきも言ったけど……こ、皇女?」


 巨大化しながらも攻撃をしてくるフドウくんを見ながら、セリスフィア皇女もライネも、心の底から動揺を見せていた。

 しかし叫んで思いを見せたライネよりも……これは。


「……どうして、どうしてエリアルレーネ様は来てくれないの?このままではユキナリは、ライネも私も……こんなにも求めているのに、どうして……」


 私とライネにメッセージを送ったように、自身の女神様にも連絡を入れているのね。

 だけどエリアルレーネ様は来ない……ジルの結界とミーティアの氷の魔力を除いたとしても、近くにいる気配すらない。


「セリスてぃ――ああもう、ミーティアとごちゃる!!セリス!!しっかりして、あの馬鹿はあなたの部下でしょ!上司のあなたがしっかりしないでどうすんの!」


 ミーティアとセリスフィアの名前がごちゃごちゃになりそうになって、私は勝手にセリスと呼ぶことにした。


「え……あ……ごめんなさい、駄目ね……」


 自分で頬を叩いて、セリスはフドウくんを見た。

 切り替えが早いのはいいことよ……戦えるのなら尚更ね。


「うん、ユキナリの魔力じゃないわ、これは……」


 冷静になり、真剣な目で分析をする。

 変身というか変貌というか、フドウくんの変わりようは異常だもの、それくらいは【感知かんち】がなくても分かりそうね。


「ここまで巨大になるとは思わなかったわね、【アルキレシィ】よりも大きいし」


「……幻獣グリフォン、帝国南部に生息していた古くからの魔物よ。ファンタジーの定番とも言えるモンスターね」


「へぇ」


 逸話は知らないわ、名前自体は聞いたことはあるけれど。


「――戦える?」


「……ええ。流石に動揺してしまったけど」


 そうみたいね……ん。


「セリス、イリアは」


「え?彼女は気絶してるはず……え、立ってる?」


 二人で確認。うん……そうは見えないわね、意識はないようだけど。

 どう見ても立っているもの。

 だからイリアもフドウくんと同じ、もしくは別の、誰かの介入。


「セリスは守りをお願い!……ミーティア!イリアを頼むわ、傷つけないようにねっ!」


 大きく叫ぶ……ミーティアは了解したようだ。

 そしてこの声に、フドウくんも反応したのだ……私を、完全に敵と認識して。

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