9-106【国境の村にて女神は集う30】



◇国境の村にて女神は集う30◇


 なんなんだよ、俺が何をした……俺はただ地球に、日本に……憧れを抱いただけなのに。

 心の奥底まで入って来て、掻き乱して、ムシャクシャしていた心を騒ぎ立てる。


 初めは我慢は出来たはずなんだ……それなのに、俺は――


『――憎いでしょう?――羨ましいでしょう?――貴方が知らない事を、他の転生者はぜ〜んぶ知っている――妬ましい――憎い――憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……』


「ニクイ……ニクイ!!」


「フドウくん!!」


 声が聞こえるんだ……誰だか分からない女の声と、小さいくせにでかい声の……天使の声だ。


『――眼の前にいるのは悪女よ……貴方の夢を邪魔する――敵なのよ』


「グゥ……テキィ」


 黙れ……頼むから、もう俺に構わないでくれ。


「このっ……言うこと聞きなさい!」


 まるで幼子に言い聞かせるよう――いで!!

 頭部に衝撃……殴られた。


 あーでも、少し目が覚めたかもしれない。


「【結晶剣クリスタル】で斬れない!?……どんな髪してんのよ!」


 おいおい、頭をたたっ斬ろうとしたのかよ……すげぇなこの子。

 でも、それで死ねればよかったんだ……なのに。


 ってか髪で防いだのか?


「グオオオオッ!ニクイ!ネタマシイ――!!」


「くっ!こんのお子様っ!人のおもちゃを欲しがるワルガキかっ!!」


 かはは、よく分かってんじゃん、クラっち……そうなんだよ。

 俺は皆が知ってるものを知りたいんだ、欲しいんだ。

 だけど……それが叶わない事くらい、何年も前にエリアに教えられたよ。

 願望、懇願、羨望……だったかな、誰がどれだけ望んでも、自分からは手に入らない――それが運命。


 そうさ、昔からよくエリアも言ってた。

 運命には抗ってはいけない、それが定めなんだから……って。

 だからエリアはここには来ない、姫さんが助けを呼んでも……あいつは来ないよ。


「ユキナリ!集中して!流されちゃ駄目よっ!」


 姫さん……やってんだよなぁさっきから。

 でも無理なんだ、制御が効かねぇし、魔力の流れがまったく掴めない。

 まるで誰かに勝手に使われてるみたいなんだ。


 あ……そうか、これが【支配しはい】される感覚。

 俺は自分の能力に支配されてるのか……情けねぇ。


「このバカァァァァァ!」


 おいおい、何泣いてんだよライネ、悪いな……さっき吹っ飛ばして。


「グウゥゥ……【グリフォンテイル】ゥゥ!!【サイレントウイング】ゥゥ!!」


 新たな進行……俺の身体からは音を発生させない大きな翼と、伸縮する獅子の尾が生えでた。


「「なっ!」」


 ……駄目だ、もう思考も揺らぎ始めた。

 考えも……もう……なにも……


『――そうよ、全てを飲み込みなさい……破壊して、奪って、蹂躙じゅうりんして支配して……そうすれば、貴方は日本で生まれ変わる……』


 まただ、また声が聞こえる。

 けどそうか……そうさ……始めから、俺の目的はそうなんだから。


 俺を止めるって事は……殺すことだ、姫さん、ライネ、クラっち。

 そうすれば俺は……転生出来るんだろ……?

 エリアだって昔そう言ってた……転生はただ死ぬだけじゃ駄目だって、本気で戦って、戦って戦って、本気を出して負けて死んだ時だけ、転生出来るんだって……言ってたもんな。


 エリアの言葉はこの声とは違うけど……もうどっちが正しいかなんてどうでもいい。誰かが止めてくれれば、それで叶うなら、止めてくれ。


 頼むよ……断罪者。

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