9-105【国境の村にて女神は集う29】



◇国境の村にて女神は集う29◇


 村の中央部での戦闘が開始されて、十数分……東部ではミオがイエシアスとの戦闘を始めている頃。

 クラウ・スクルーズはユキナリ・フドウと対峙たいじをし、腕を肥大化させ魔物と化した少年を反省させるために、光の剣を向けていた。


「我儘な子供を叱って反省をうながすのも、立派な大人の――」


「――ウォアァ!!」


 ドガッ――ン!!


「とっ!ちょっとフドウくん!まだセリフの途中でしょ!!」


 振り下ろされた巨腕は地面を粉砕し、翼を広げたクラウは飛翔して回避したが、怒る所はそこではない。


「ウ、ウォォォ!ク……ラウ……オレ、ハ!」


「……どうやら迷惑かけてる自覚はあるようね」


 回避時に【クラウソラス】を振ったが、ユキナリ・フドウはダメージをうけていないように見えて、少し歯噛みするクラウ。


「――クラウ!」


「ミーティア……?どうし――って!フドウくん!待って!この……しっ!ミーティア、そのまま話して!!」


 ユキナリの攻撃は見境なく繰り出され、ミーティアと話をするまもなくクラウは回避に追われた。


「ええ!?い、いいけど……平気なの!?」


 「平気!」と返事をもらうも、【固有領域ユニーク・レギオン】を展開するミーティアは、周囲の冷気のせいで声が通りにくくなっていた。

 向上した魔力の流れのおかげで聞き取りは出来るが、声を届けるのは別なのだ。


「ミーティア、あたしが代わりに!」


 範囲で凍結する場から少し離れた場所で、アイシア・ロクッサが手をメガホン替わりして叫んだ。

 その隣ではジルリーネ・ランドグリーズが、細かい詠唱をしながら結界を巡らせている。


 それを確認してから、ミーティアは小さくうなずいてアイシアに伝言を頼む。


「分かったわ……――ウィズからの返事があったの!トラブルで少し遅れるって、そっちは任せるって!」


「……だそうですぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 クラウに向かって叫ぶアイシア。

 よく通る声だ……クラウにもしっかり届いた、その上でクラウは。


「――何があったらこのタイミングでトラブんのよ!絶対にややこしい事になってるでしょ!!……【貫線光レイ】!!」


 攻撃を避けながらも、クラウは冷静だった。

 この奇妙な騒動を、他者からの介入ではないかと予見したのだ。


「ミーティア、あとは!?」


 アイシアも、何故か発動しない【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】に気を取られている場合ではないと、自分に出来ることを模索している。


「……ありがとうアイシア!じゃあその瞳で、この場のことをしっかり見ていて!あの人たちの事を」


「あの人たち、帝都の」


 ミーティアの言葉に、アイシアは濃紫の瞳を戦場に向ける。

 発端はおそらくユキナリ・フドウだと、この場の誰もが思っているだろう。

 それは、始まりを目撃したアイシアとて同じ……しかしセリスフィア皇女やクラウの言動を見て取れば、それだけが原因ではないと分かる。

 だから見つめる……真実を、彼ら彼女らだけが悪いのではないと……確かめる為に。

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