9-100【国境の村にて女神は集う24】



◇国境の村にて女神は集う24◇


 魔力も感じない、ウィズにも判明できない霧毒。

 しかし実感出来るのは、急激な体調の変化……一つ思い当たるのは、水で切られた身体の傷口、初めの毒はそこから流されたんだな……きっと。

 更にはあの霧だ、さっき叫んだときに吸い込んじまったし、それで毒の進行が加速した感じか?


「うふふ……本当に厄介なのは、最後まで実力を隠すタイプでしょう?」


「……全部見せてくる奴よりはな……」


 地面に倒れながら、俺は視線だけでイエシアスを見る。

 恍惚にも近い顔で、満足げに俺の倒れる姿を観察している……もしかして毒で死ぬまで待つ気かよ。慎重だな、意外と。


「……ふふふ」


 ニヤニヤ笑いやがって、そうやって俺が死ぬと思ってんのも、油断って奴だぞ。

 ウィズ……能力の解放だ、もっとやれ……代償なんて知ったことか。


『――残念ですが、これ以上は……不可能です』


「!」


 どうしてだっ!?さっきは二度もやっただろ!

 まだなにか、打破できる能力があるだろ!?


「あら〜?どうしたのかしら……その表情かお、中々そそるじゃない」


 嗜虐しぎゃくと言うか、興奮気味に頬を染めるイエシアス。

 このドS女神が……


『――【女神イエシアス】の毒には、魔力の最大値を極端に低下させる毒素も含まれていたようです……よって、解放するための魔力が圧倒的に足りません』


 巫山戯ふざけんなよ……チート毒が。


「……」


 どうする、どうすればいい。

 転生者同士の戦いなんて比じゃない……最大級のピンチ。


 【反転はんてん】で……いや、魔力がねぇなら発動も出来ない。

 【無限むげん】は消費が少ないが、どこをどうすばいいのかと言うほどに、操作できる物がこの場にはない。


 そもそも身体が動かない。

 攻撃も防御も、動かせなきゃ話にならないだろ……このバステ強すぎ問題。


「さぁ、もう少しかしらねぇ……常人なら一分も持たないのよぉ?」


「……毒の魔人、って……言ったな、イエシアス」


 蠱毒の魔人リレイヤ。

 有名なのかどうなのかすら、勉強不足で俺は知らない。

 魔族に関する事は、書に目を通していないからウィズにも反映されていないし、マジで反省だ……今後の課題だな。


『――か、課題……まさか諦めて……いないのですか?』


「そうよ、これでも名のある魔人だったのだから……千年も前だけどねぇ」


 邪魔なイエシアスの声は無視だ。

 いいかウィズ、俺は諦めるなんて言ってないだろ?

 選択肢は無限なんだよ……どうにかなる、どうにかするんだ。


 考える、感じる、幾億通りの未来……そのどこの未来にも、俺は存在する――そうイメージするんだ……想像だよ。


 ここで死ぬ未来なんて、アイシアはきっと見ていないんだから。


 ぐっ……ぐぐっ……


「……嘘……」


 驚きの声を上げたのはイエシアスだ。

 俺を見る顔は、ああ……引きつってるな。


「信じられないだろ?俺もだよ……これこそ正に火事場の馬鹿力、人間の底力さ」


 血を流し、身体を痙攣させて……俺は立った。


「動けるはず……」


 首を横に振りながら、イエシアスは後退した。

 そこまで驚くってことは、そうとう自信があったんだな、この毒に。


「へへ……これが漫画とかアニメだったら、『この時不思議なことが……』とか言われてるな、絶対」


 だけどこれは現実だ。

 痛いし苦しいし、悲しいしムカつくし……傷は平気だし泣けないけども。


「俺が最初に与えられたのは――【無限むげん】だ。簡単な話さ、そう……【無限むげん】なんだよ」


 俺が選んだ能力で……俺が望んだ能力だ。

 解放とか間違えとか、そんなんで与えられたわけじゃない、真の俺の転生の特典ギフト


「それが……なに!?」


 【無限むげん】はオブジェクトを操作する能力だ。

 概念的なものではなく、物体を操作して物を作成、構築する能力……だけど、言葉の意味だけを汲み取れば……それは【無限むげん】なんだ。


「能力には相性があるんだ……実際、俺は武器系の能力をあまり使わない。だからこうすることも出来る……いや、する!!」


 俺はフラフラしながら、腰に刺したままの【ミストルティン】を手に取る。


「そんなもの、女神わたしには通用しな――」


「そうじゃないんだなぁ……これは、こうすんのさ!!」


 【ミストルティン】を天に掲げ、今出せる力と魔力を振り絞る。

 足りないぶんは寿命でもなんでもいい……ウィズ、俺の全部を使えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


『――これは……ミオの……!!』


 俺の思考は一瞬でウィズに伝達する。

 発想は宝、創造は自由……世界は無限だ!!


「――【ミストルティン】を……【無限むげん】に【譲渡じょうと】すんだよぉぉぉぉぉ!!」


 本来の使い方ではない、俗に言うシステム外操作。

 神が定めたスクリプトなんて知ったことか、そんなもん書き換えてしまえ。


 魔力が足りない?なら寿命でもなんでも持ってけぇぇぇ!!


「そんな馬鹿な使い方が、あるわけ!!」


 イエシアスは何かをしようと魔力を練る、だが。


「もう遅いんだよ!毒が回るまで待つとか舐めプするからだ!!……いいか!ばかと【叡智てんさい】は……紙一重なんだよ!!覚えとけぇえぇええええ!」


 砕け、輝く粒子になる【ミストルティン】は、霧散して周囲を照らす。

 キラキラと光り、まるで祝福を受けているかのように……やがて俺の身体に還る。


 もともと【ミストルティン】は、【無限むげん】の操作性を補助するようなものだと考えていた、だからこれも可能だと思ったんだ。


 【無限むげん】はこうして……本当に無限大、果てしのない概念へとなった。

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