9-99【国境の村にて女神は集う23】



◇国境の村にて女神は集う23◇


 俺が得た二つの能力――【哀傷あいしょう】と【反転はんてん】。

 王道ではない能力二つは、代償というものがあった。

 未成熟の身体では耐えられない、だからウィズは能力の解放を遅らせてくれていたようだが……状況が状況のせいでやむなく、代償を覚悟で覚醒させたんだ。


 それでも犠牲は付き物。

 【哀傷あいしょう】では“涙を流す”という行為を、【反転はんてん】では使用時に脳が揺さぶられ、三半規管が麻痺すると言う消費があると分かった。

 そう言われれば、なんだか瞳が乾いてきた気がする。


忌々いまいましい子だわぁ……ミオ」


「へへ、そりゃどーも。最っ高の褒め言葉だね……イエシアス」


 女神に忌々いまいましいと思われてるなんて、栄誉だろ。

 どこのダークヒーローだよ。でも俺はぜんぜん闇堕ちしてないからな。する予定もない。


「でも流石にそろそろよ、いい加減に消えてくれないかしらぁ……」


 かざす手には重力球。

 先程よりも大きい、魔力に怒りが乗ってやがる。


「能力の回収だけじゃ済まないセリフだな、困ったもんだ」


 撃ち出された重力球は俺に迫る。

 ゆっくりと迫るもの、高速で迫るもの、縦横無尽に右往左往。

 ランダム性で規則性のないその攻撃をどう避ける……


「【紫電しでん】!跳ぶぞウィズ!」


 超脚力で、真上に跳ぶ。

 上からの方が見やすい……って数多いな!どんだけ俺を排したいんだよイエシアスは!!


「【光煉華こうれんか】っ!――放射しろ!【雷光放電斉射ライトニングブラスター】!!」


 光熱と雷の放射。

 真上から無差別に、重力球を迎撃。

 それでもすり抜けてきた奴は。


「【極光きょっこう】と【紫電しでん】で――」


 両手の光と両足の稲妻。

 その魔力を、中心である腹の辺りで集中させ……一つにし、俺はそれを殴る。

 さしずめ――【雷電光波線らいでんこうはせん】ってところか……クラウ姉さんの【貫線光レイ】を極太にして、雷属性増やした感じだな。


 ドッ――!!


 光は全体に広がりイエシアスを含む重力球を消し去る。

 着地し、「どうせイエシアスは無傷」と言おうとした俺の目の前には――


「……いない?」


『――左です!』


 収束し、霧のような魔力の粒子が集まって形作る。

 直ぐに姿かたちを整え、イエシアスだったと判明するが、なんだこの違和感は。


「……霧?避けたのか?」


「こういう事もできると、教えてあげただけじゃない」


 そうかよ、だけど……その意味はあるのか?

 わざわざ手数を見せる必要は、イエシアスにはないはずだ。


「なるどな、その霧になる能力で……気配もなくここまで来たってことか」


「ふふふ、そういう事ね、驚いたでしょう?」


 驚かせる為だけにやったとしたらな。

 だが、なにか理由があるとしたら……それこそ、【哀傷あいしょう】のように代償があるとか。


「驚いたには驚いたよ。避ける必要もないのに能力をさらして、俺ならそんなことはしないしな……混乱させるためだったなら、最善手だけどなっ」


 実際、訳分からんし。

 女神はそもそも訳が分からない……アイズレーンもエリアルレーネもイエシアスも、もれなく全員だ。


「面白いものでしょう?不文律のぐちゃぐちゃな女神はねぇ」


 霧が結構広がってる……細目で見ないとイエシアスの輪郭がボケてくるな。

 俺は霧を払うようにブン――と腕を振って、大きな声で叫ぶ。


「何が不文律だ!きっちり決まってる方が分かりやすいっての!……ぉ……?」


 クラリとした。

 視界が歪んで、ゆらゆらと揺れて。


『――出血が異常です。傷が塞がりません……これは――まさか……あの霧は!?』


「マ、ジか……毒かよ……あの、霧……」


「――うふふ、うふふふ……アハハハハハハ!」


 蠱惑なんてもんじゃない。

 ゲスいんだよ、その笑い……方……


「これこそが、蠱毒の魔人リレイヤの――私の力!」


 リレイヤ……それがお前の、神に成る前の――真の名か。

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