9-97【国境の村にて女神は集う21】



◇国境の村にて女神は集う21◇


 【光煉華こうれんか】を撃ちまくり、光球の操作をウィズに任せて、俺は走り出す。

 向かう先はイエシアス――ではなく、大岩の影だが。


「――よっとっぉぉ!」


 ドンッ――!!と向かってくる黒い球体を避けて影に飛び込む。


『……【女神イエシアス】に向かうのでは?』


「戦略だっつの!アレにどう対処すんだよ!?重力だぞ、当たったらどうする!【カラドボルグ】で押し負けてんだぞ!?それに数が多いんだよ!【光煉華こうれんか】が足りないとか!」


 最悪圧縮されるとこまで想像した。


「……隠れても無駄よぉ。これでも私は、女神の中で一番の戦闘力を持っているのよねぇ……素で戦うなら、一番のエリアルレーネにも負けないわぁ」


「……一番??」


 エリアルレーネ様は二番目の女神だったよな……一番目の女神はオウロヴェリアなはずだ。

 もしかして、イエシアスにはオウロヴェリアの記憶がないのか?

 いやしかし、あのアイズでさえ知ってたんだぞ……?


 そんな考えをした瞬間。

 ミシ――ミシミシ……と、岩が。


「いっ!?……くっそ!全然持たねぇじゃないか!」


 そこら辺にあるただの岩だもんな。

 いくら【無限むげん】で強化しても駄目か。


「その能力、回収したやつだろ!!」


「あらよく分かるわね、じゃあコレはどうかしら!」


 声とともに、岩に横一線に青い線が入った。


「なにを――ぐっ!!」


 シュパン――と、岩に向いていた俺の身体に線が入った。

 切れたんだ。しかし痛みはない……【哀傷あいしょう】の効果だ。


 切れた身体を触ると、濡れていた。

 俺自身の血と、切ってきた水で。


「水の、刃か!」


「【波刃はじん】という水の能力ね、いいでしょう?」


「――それな!俺は水の能力持ってねぇから!!」


『――ご主人様、傷の痛みは無効化出来ますが出血は防げません。普通に死にますのでご注意を』


「言われなくても理解してる!出血多量で死にたくもないから急ぐぞ!!お前は早く……連絡取れよ!」


『……やってます』


「ならいい!!……【無限むげん】!【豊穣ほうじょう】!」


 イエシアスに効かないのは百も承知。

 牽制でもなんでもいい、あの女の目を誤魔化せさえすれば!


 地面、石、木、草。

 能力で操作できるあらゆる物体にフォーカスし、全力で魔力を注ぐ。

 【極光きょっこう】と【煉華れんげ】による【光煉華こうれんか】も再度使い、オールレンジ攻撃を仕掛ける。


 まるで生きているかのように、そこら辺にある物体が続々と形を変えてイエシアスに迫る。


「残念だけど」


 バシュ――シュッゥゥゥ――

 掻き消されるように、イエシアスに触れる直前に消えていく俺が操作した物体たち。【光煉華こうれんか】も、重力球に相殺されていた。


「――効かないのよねぇ、ミオ……いない?」


 しかし、イエシアスが声をかけるその場に、俺はいない。


「――そうだよ、だけど一瞬だけ……油断したろ!!」


「!!……まさか【転移てんい】!?リディオルフの!」


 驚くだろ、お前が利用した男の能力だ!


 背後から、俺はイエシアスの肩を掴む。

 能力が効かないのなら……この身一つで!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る