9-96【国境の村にて女神は集う20】



◇国境の村にて女神は集う20◇


 イエシアスの強力な圧力プレッシャーに、俺は本能で後退っていた。


「ど、どういう意味だよ……」

(おおおおお、怖えぇぇぇぇぇ!!)


 表情に影を落とし、俺に「それだけは違う」と断言する。

 だけ……女王のことか、それとも主神のことか。

 女神は完全アウトな嘘をつけない、誤魔化しや濁すことは出来るが、断言すると言うことは、確定事項だ。


「我があるじ、主神レネスグリエイトは崇高なお方よ……私があのお方に黙って、おとしめるような真似はしないわ」

(……私の願いは隣に並ぶこと……同じ存在に成ること)


 主神の方だったか、じゃあ女王の方は不透明のままか。


「ならアンタは何の為に……」


 そこまで言いかけて、俺はある疑問を持った。

 それは、主神や人間たちの為に行動する女神にはない行動理念。


 この世界の為に自由を得ようと、神の手から離れようとするアイズ。

 同じく、エリアルレーネ様もそれに協力をしてくれる。

 言わば“誰かの為”の手段……女神の行動する理由は、確定ではないがそれが多い。

 ウィンスタリアと言う女神については知らないことも多いが……イエシアスの動きを考えれば……それは。


「アンタは……自分の為・・・・に行動してるのか、他の女神をあざむいて、敬愛する主神にバレないようにっ」


「……」


 主神に対する情愛は本物なんだろう。

 だとすれば……考えられる理由は。


「他の女神を出し抜いて……何をする気だ」


 イエシアスの目的の到達点は、俺のチート能力を回収することだけじゃない。

 究極的な目的が、主神の命令である……能力の回収という指示を逆手に取ってでも、叶えたい何かがあるんだとすれば。


「――察しのいい子は嫌いじゃないわ、でもね君……かなり邪魔なのよ」


 俺に向けてかざされた手には、黒い球体があった。


「魔法かっ!?」


 アイズもたまに使うんだ、イエシアスが使えたってなんら不思議じゃない。

 問題はどんな魔法なのか、攻撃かそうじゃないかだ。


 大剣である【カラドボルグ】で防ぐように構える。

 目視だけは出来るようにした瞬間、イエシアスの手のひらから黒い球体が撃ち出された。


「――はやっ……うおっ!!」


 まるで引力のように、【カラドボルグ】の金色の刀身へ一直線。

 音もない衝撃は俺の身体ごと後方へ押しやる。


 ズザザザ――と、両足を踏ん張ってこらえる。


「なんだ!これっ!!」


 斬り払うように【カラドボルグ】を振る、【丈夫ますらお】全力の力を込めて。


「重力魔法よ、この世界では転生者以外は使えない・・・・……ねぇ」


 つまりは転生の特典ギフトって事かよ!


「なら撃ち落とす!!【光煉華こうれんか】っ――!!」


 【極光きょっこう】と【煉華れんげ】の複合技。

 無数の光の球体は熱を持ち、イエシアスの手から次々と放たれる重力球を迎え撃つ。能力のレベルはこっちが上だ、なら魔力で潰せるはず!!


「ウィズ!攻撃座標は任せるぞ!目標は重力の球!俺はイエシアスを……!」


『――了解』


「あら簡単にはいかないわよぉ?これでも女神になる前は――魔人・・だったのだからねぇ!!」


 豹変したかのように、イエシアスは鈍色にびいろの髪に隠れた耳を露出させる……そこには上向きに尖る、エルフとは違う耳が。


「――魔人を女神にしてんじゃねぇよぉぉぉぉ!!」


 ドドドドドドドドドドドドドッ――!!


 相反する白と黒の激突は、こうして始まったのだった。

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